2018 Fiscal Year Research-status Report
Entanglement Structure Analysis of Non-Uniform Systems by Tensor Network Formulation
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17K05578
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
西野 友年 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (00241563)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | フラクタル / エンタングルメント / エントロピー / テンソルネットワーク / 非一様 / HOTRG / イジングモデル / 木構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は新たに、境界を持つ一様系のエンタングルメント構造解析に着目した。これは、研究目的に掲げる「非一様系のエンタングルメント構造解析」を技術的に支える、数値計算手法を開発しようとするものである。格子に乗った量子系のハミルトニアンが、位置によらず全く同じ形の近接相互作用の和で書かれている場合を考えよう。系が十分に大きければ、境界から遠く離れた内部では空間的に一様な量子状態の出現が期待される。他方、系の端付近では、境界効果により空間的に非一様な状態が安定となる。この、非一様性を記述する量子力学的な波動関数が厳密に求められる場合、エンタングルメント構造を明示的に書き表すことが可能だろうか?この非自明な問題設定に対し、2分割量子エントロピーを解決の指標とすることにした。系の可能な分割全てについて量子エントロピーを求め、エンタングルメントの分布を木構造 (Tree Structure) へと帰着させるアルゴリズムを幾つか開発した。昨年度に検討した、フラクタル系についての状態解析には継続して取り組んでいる。シェルピンスキー・ガスケット上の量子イジング模型について、基底状態の自発磁化等を、高次テンソル繰り込み群手法(HOTRG) により求めた結果を、出版論文として公表した。特に、初期テンソルの構成方法について、空間・虚時間のそれぞれの方向への、エンタングルメント・エントロピーを指標とする数値処理の重要性を示した。同様にフラクタル構造を持つ、シェルピンスキー・カーペット上の古典イジング模型についても、HOTRG 手法による解析を継続し、内部エネルギーや自発磁化が、どのように格子状の位置に依存するかを解明し、報文にまとめてプレプリントとして公開した。以上の数値解析を目的として開発した数値計算プログラムは、今後の研究に用いることができるよう、可能な限り汎用性のある形で保持してある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Nサイトの量子力学系について、その状態を表す波動関数を厳密に数値表現できれば、系の性質は全て手中にあると考えるかもしれない。確かに、あらゆる演算子について、その期待値を求めることは可能である。しかし、実際に、どの2つのサイトが強い量子相関を持っているのか、また、いくつかのサイトがグループを組み、系全体が複数のグループに分割されているように解釈可能であるのか等、量子状態の構成・構造に関わる直感的な理解には遠い。テンソルネットワーク形式ではこれまで、逆思考的なアプローチが取られて来た。自由度を絞ったテンソルを組み合わせて、与えられた波動関数をなるべく正確に近似することから検討を開始するのである。結果として良い近似が得られれば、その際のテンソルの縮約の空間構造が、求めようとした系の本質的な空間構造であると考えるわけである。但し、このアプローチはエネルギーを指標とした反復計算に依存しており、結局の所、本質的にどのような物理量がテンソルネットワークの形を定めたのか、把握し辛いという欠点がある。そこで、系の2分割に対する量子エントロピーを「可能な全ての2分割」について求め、これを参照しつつ陽な形でエンタングルメントの空間構造を解明する方策を立てた。木構造を仮定して、それぞれの枝に対応する2分エントロピーが、なるべく小さくなるような「木」を探索するアルゴリズムを幾つか定め、それぞれの優劣を評価した。最初に取り組んだ、2分エントロピーが最小となる分割から「枝」を作り始めるアルゴリズムは、当初の直感に反して、1次元的な行列積状態に近い木構造を導出することが判明した。枝が2分割する際に、双方の枝に付随する2分エントロピーの和、あるいはその最大値について、最小原理を設定して探索を行うと、より実態に近い木構造が得られることが判明した。但し、未だに最適な木構造の自動取得には成功していない。
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Strategy for Future Research Activity |
エンタングルメント構造の解明に向け、Nサイトの量子力学系の2分エントロピーに即した最適な木構造の自動生成へ向けて、更に検討を進めて行く。相異なる全ての木構造は、局所的なサイトの入れ換えや、木の枝の組み換えで互いに移り変わることができる。これらの基本的な組み換えに対して、枝に乗る2分エントロピーの最大値が減少する方向へと木構造の探索を行うアルゴリズムについて、まず検討を行いたい。この方策には、局所的な極小に引っかかる欠点があると予想されることから、組み換え範囲を広げることも検討して行く。また、2分エントロピーが多少は増加する方向へも確率的に探索を行って行くアニーリングについても、その効果を評価したい。これらの試行と並行して、木構造が定まった場合に、対応するテンソルネットワークを、より少ない自由度で構築する計算手法を開発する。エンタングルメントの観点から木構造が先に定まっていることから、従来に比べて少ない計算量で、木構造テンソルネットワークが得られるはずである。以上は、先に波動関数が与えられていた場合の方策である。実際的には、ハミルトニアンが先に与えられていて、基底状態を求めることが必要である。従って、まず初期の木構造と、それに対応する試行的なテンソルネットワークを与え、ハミルトニアンの期待値を最小にするよう最適化を行い、得られた基底状態の近所について、局所的な木構造の組み換えを行って行くプロセスを、何度も繰り返す反復計算が必須となる。このように統合された数値計算手法の開発へと、段階的に進んで行きたい。継続課題として取り組んでいるフラクタル系については、3次元など、より高い次元のフラクタルについて、解析の幅を広げて行く。いまひとつの継続課題として解析にあたっている、多自由度の離散ハイゼンベルグ模型についても、安定した並列計算手法の開発を引き続き推進して行く。
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Remarks |
テンソルネットワーク形式に関連する論文のデータベースである。
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Research Products
(6 results)