2019 Fiscal Year Research-status Report
Entanglement Structure Analysis of Non-Uniform Systems by Tensor Network Formulation
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17K05578
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
西野 友年 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (00241563)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | エンタングルメント / フラクタル / 非一様 / 相互情報量 / 量子エントロピー / テンソルネットワーク / 臨界現象 / 相転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
スケール変換に対しては一様系に似た振る舞いを持ち、かつ並進対称性がないフラクタル格子上の古典スピンおよび量子スピン系が非自明な相転移を起こす事実について、2次元的な結合を持つシェルピンスキー三角形や、同カーペット上の格子系でこれまで確認して来た。本年度は新たに、3次元的な結合を持つシェルピンスキーピラミッド格子上の量子イジング模型と、その拡張である3状態量子ポッツ模型について、横磁場に対する量子相転移の特異性を、高次特異値分解を用いたテンソルネットワーク形式により数値的に解析した。その結果、自発磁化が示す臨界指数は、2次元量子イジング模型が示す特異性から外れ、1次元量子イジング模型側に寄っていることが判明した。シェルピンスキーピラミッドのフラクタル次元は2であることから、格子のフラクタル次元が、その上に乗った模型の臨界現象に対して、直ちに反映されるものではないことが、以上の数値解析から新たに判明した。もう一つの研究の柱として、一様な2次元系が臨界状態にある状況を、半無限の非一様な量子1次元系と解釈することにより、対応する量子的な情報量であるエンタングルメント・エントロピーを数値計算により求め、相転移現象の解明を行うアプローチについても、前年度までに引き続き取り組んでいる。1格子点あたりの自由度が大きな古典スピン模型の例として、6状態クロック模型、12及び20自由度の正多面体模型、そして内部空間の次元が4以上である十字ポリトープ模型などの熱力学解析に着手している。その中で、6状態クロック模型については、エンタングルメント・エントロピーを用いればコスタリッツ・サウレス相の境界を精密に確定できることが確認できた。数値データの統計的な取り扱いにおいては、原田によるベイズ推定のアルゴリズムを用い、先見的な知識を用いずにスケーリング関数の形を確定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今の段階で最も力を注いでいる解析対象が、正方格子上の古典多面体模型のエンタングルメント・エントロピーを通じた臨界現象解析である。12自由度の正多面体模型(ドデカヘドロん模型)については、温度変化に対する秩序・無秩序転移が一度だけ起こり、中間的なコスタリッツ・サウレス相は存在しないことが判明している。但し、数値的に評価された臨界指数はこれまでに知られていない値を取り、また、中心電荷は1を超える値を持っている。この特異な性質を説明するには、解析対象である12自由度模型が持つ空間的な対称性に、複数の対称軸があることを考慮する必要があると推測し、異方性を導入した追加的な計算を行なっている所である。正多面体を大きく歪ませてイジング異方性を導入すると相転移は直ちにイジング普遍性を示すようになり、また、大きくXY的に異方性を入れると、コスタリッツ・サウレス相を持つ。これらの変形が小さい場合の、相転移の変化を確実に捉えるには、これまで以上の数値精度が計算に必要であり、新たな計算機による大規模解析を計画している所である。20自由度模型についての予備的な数値計算からは、12自由度の場合に比べて、より大きな中心電荷を持つ2次相転移の存在が示唆されている。サイト自由度が増えるに従って、中心電荷も増大して行く理由について、定性的な解釈が存在しないかについて、検討を重ねている。12自由度及び20自由度の系では、キュービックな異方性を導入することも可能であり、この場合には2次相転移が2回起こるのではないかと推察される。この簡単な推測から中心電荷を単純な足し算で評価することも可能であり、数値データと一定の範囲で一致することが判明した。内部自由度の空間次元がNである、2N自由度の十字ポリトープ模型は、Nが4以上であれば常に、1次相転移であることが判明した。現在、ポッツ模型との対応について解析を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
分子系など、空間構造が先見的に自明ではない系に対して、エンタングルメントを軸とした的確なテンソルネットワークの構築を行なうことは、より一般的な応用へ向けた重要な布石である。木構造を用いた場合について、これまでに予備的な計算を行ない、厳密に波動関数が求められている場合には木構造を更新して行くことが可能であることも、比較的小規模な量子スピン系について確認できている。これらの予備解析の方針を延伸し、厳密な波動関数が求められない大きさの系についても、予め与えた小自由度の木構造テンソルネットワークから変分波動関数の最適化を行う形の、密度行列繰り込み群の拡張を今後の研究の柱として行く予定である。一方で、非一様系の例として新たに、中心に穴の空いた2次元格子模型を考え、そのエンタングルメントが穴の大きさに対して、どのように変化して行くかを追跡する積年の課題についても、大規模数値計算を通じた精密解析により、共形場との比較や、格子の存在による補正の形も含め、決着をつけて行きたい。多面体模型については、部分群の自由度が多彩である準正多面体に対しても考察を広げ、中心電荷などに対し、これまでに得られた幾つかの予想について確認してゆきたい。次の1年間が研究計画の最終年度であることから、研究期間を通じて得られた成果について取りまとめを行い、順次、論文あるいは解説として出版するとともに、より幅広い関心を獲得する目的でSNSなども含めた情報媒体を通じて、成果発表して行きたい。テンソルネットワーク形式による精密解析の視点からは、本計画で取り扱って来た多自由度模型に対して、少ない計算量でエンタングルメントのフィルタリングを実現することが肝要であり、その数値計算的な実装方法について、新たな着想の芽を探索して行く。
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Causes of Carryover |
参加予定であった3月開催の学会の実施が、急遽取り止めとなり、旅費の執行がなくなったため差額が生じた。次年度に計算機等の備品を購入する。
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Remarks |
テンソルネットワーク形式に関する論文のデータベースである。
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