2019 Fiscal Year Annual Research Report
Statistical physics of small systems with thermal flow
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17K05587
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
齊藤 圭司 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (90312983)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 非平衡熱現象 |
Outline of Annual Research Achievements |
有限時間のサイクルで熱が仕事に変換する際の詳細なメカニズムを研究した。特に以下の課題に取り組んだ。準静的パラメータに近い過程を「近準静的過程」と呼ぶ。近準静的過程に限ったとき、熱効率と仕事率との間に一般的な関係はあるだろうか?この問題にまず取り組んだ。近準静的過程は、サイクルの時間をTとすれば、(1/T)で形式的に状態の時間発展を記述することができる。このことに着目すると(1/T)の範囲での線形応答理論が構築できる。これから、熱効率と仕事率に関する一般的な記述をし、またそれらの間に成立する一般的な関係を導出することに成功した。まず、仕事率は熱効率の関数で上限を押さえられるが、その際の関数形に「熱力学長」という幾何学量が重要な物理量として登場する。この不等式において等号を与える条件は、熱力学長を使って記述することができる。このことから、熱と仕事の変換を幾何学というキーワードで関係づけられたことになる。 また、確率的に変化する古典ダイナミクスの熱緩和の一般的性質についても研究した。ポテンシャルが時間変化しない状況を考える。このような、簡単だが一般的な系で、熱緩和過程には熱力学的制限はあるであろうか?熱力学はいかなる場合も熱力学第2法則が成立することを要請する。我々は、この制限よりもより強い制限が存在するか否かを考察した。その結果、ある初期状態の分布関数から時間発展したとき、任意の時間までに生成する全エントロピーは、その時刻の分布関数と初期分布関数との距離(相対エントロピー)で下限を押さえられることを示すことに成功した。相対エントロピーは常に非負であることを考えると、この関係式は全エントロピーが非負であることのみを要請する熱力学第2法則よりも強い条件を与えている。
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