2018 Fiscal Year Research-status Report
衝撃圧縮その場時間分解X線構造解析法による構造変化ダイナミクスの解明
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17K05702
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
興野 純 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (40375431)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
一柳 光平 自治医科大学, 医学部, ポスト・ドクター (70435618)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | レーザー衝撃圧縮 / 時間分解XRD / 多結晶金属 / ジルコニア |
Outline of Annual Research Achievements |
太陽系の初期段階では,小天体同士の衝突集積現象が多く生じていたことが知られており,惑星進化を理解するには衝突による高温高圧下における諸性質が重要となる.本課題では,衝撃圧縮下での構造変化過程をその場観察し,衝撃高温高圧下での物質の変化を結晶構造レベルで解明していくことを目指している. 本課題では高強度レーザーによって発生させた衝撃圧縮下での構造変化ダイナミクスを観察する実験を進めているが,該当年度は共同研究者と協力して高エネルギー加速器研究機構の放射光施設PF-ARの衝撃波発生用レーザーの改善を大きく進めた.レーザーの空間プロファイルは発生する衝撃波の空間プロファイルに直接影響するため本実験を行なう上で大変重要となる.該当年度以前はレーザープロファイルが良くなく,衝撃波が分布をもってしまっていた.そのため,構造変化を平均して観察してしまう本手法では,単一現象として解析することが困難であり,衝撃下でのダイナミクスを時間軸に沿って理解することが出来なかった.しかし,上述のレーザーの空間プロファイル改善により,衝撃圧縮から解放まで連続的に現象を追いかけて観察することが出来るようになった.本レーザーを用いて衝撃下時間分解X線回折測定をアルミニウム,ジルコニアセラミックス試料に対して行なった.アルミニウム試料に対する実験からは,結晶格子面の圧縮率の変化,二次元X線回折像の同心円方向への回折強度分布の変化から見積もられる結晶方向の観察を行ない,衝撃下での多結晶体の応答例のデータを得た.ジルコニア試料に対する実験からは破壊過程におけるX線回折測定結果を得ることができ,これまで直接観察されることなく議論されてきた正方晶安定化ジルコニアの変態強化機構を初めて直接観察することに成功した.これらのデータを一つ一つの得ることで,衝撃下での構造ダイナミクスの理解を深められつつある.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
衝撃用レーザーはflat topな空間プロファイルに成形され,パルスエネルギー約15 J,パルス幅12 nsのパルス光が約30分に一回の繰り返しで使用できる状態になっている.本レーザーを用いて,アルミニウムとジルコニアセラミックスについて衝撃実験を行ないX線回折パターンの時間変化データが得られ,解析を進めてきている.アルミニウムの実験で,試料に用いたアルミニウム箔はもともと配向性を持っており,X線サイズと結晶子サイズの関係から,スポット状の回折点が同心円方向への頻度分布をもって二次元検出器上に見られた.最大衝撃圧20 GPaの衝撃により,各格子面は約15%の圧縮率まで3 ns以下の時間で一気に圧縮された.圧縮時から回折点は同心円方向に広がったが配向性は保たれたままであった.圧縮開始の約10 ns後には解放が始まり,時間とともに回折点は線になったが,解放後も同心円方向への回折強度分布は保たれていた.このことから,結晶面の配向方向は保たれながら,結晶子が微細化し,すべりに連続した回転か,変形双晶によりX線軸の周りに回転したことが考えられ,多結晶金属試料の衝撃下での構造変化ダイナミクスの一例が明らかになった.ジルコニアセラミックスに対する実験では,正方晶で安定化された試料を用いた.圧縮過程で4%圧縮されたが,高圧相への構造相転移は観察されなかった.解放過程では部分的に単斜晶系への相転移が確認された.出現した単斜晶系の単位胞体積はもとの正方晶系の単位胞体積より約2%大きかった.この単斜晶系への構造相転移と体積膨張は強化機構として従来から考えられていたものであり,本実験により初めて直接観察された.現在,透過型電子顕微鏡観察により相転移の空間的な分布を調べている.以上の二例のように,実験システムは確立され,各物質の衝撃下でのダイナミクスを解明していくためのデータも得られてきている.
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Strategy for Future Research Activity |
これまで多結晶試料のダイナミクスを観察してきたが,今後原子レベルでの動きを見ることを目指し,単結晶試料を用いた測定を行なっていく予定である.多結晶のような結晶粒界がなく,結晶面も一方向に揃った単結晶試料を用いることで圧縮異方性やその変化量など衝撃下での構造変化を考える上で重要となる応答を明確にしていく.しかしながら,単結晶試料はある結晶面がある一方向にしか向いていないために,単色X線ではブラッグ条件を満たす角度に試料を合わせないと回折点は観測されない.そこで,エネルギー幅の広い白色X線と単色X線を相補利用してダイナミクス観察をしていくことを予定している.放射光で実験をしているので,白色X線が使えることが大きな利点である.白色X線ではブラック条件を満たす面間隔の許容幅が広いために,試料の角度を変えずに多くの回折点を一度に見ることができる.また白色X線回折の場合,格子面角度が変化した場合にもその角度に対応したエネルギーの回折点が見られるため,格子面角度に関する情報を得ることもできる.衝撃波の伝播による衝撃圧縮下では一軸圧縮され,ユゴニオ弾性限界を超えたところで多軸圧縮されるようになることが予想されるが,その過程を直接観察した例はない.白色X線回折実験から圧縮軸方向の時間変化を観察していく.一方で,白色X線では圧縮や角度が変わるとそれに対応したエネルギー回折が見えるため,圧縮の変化量を定量的に算出することは難しい.そこで,単色X線を用いて,同実験を行なうことで変化量の算出を試みる.これらから,衝撃波が伝播する際の衝撃圧縮下での構造ダイナミクスを一つ一つ明らかにしていく.
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Causes of Carryover |
年度末に共同実験施設を利用した際に見込んでいた使用料との差額である.差額分は消耗品購入のための物品費に当てる.
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Research Products
(23 results)