2018 Fiscal Year Research-status Report
レーザープラズマを用いた火花放電路の長距離形成に関する基礎研究
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17K05733
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
大熊 康典 日本大学, 生産工学部, 教授 (80287581)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 火花放電 / レーザープラズマ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、レンズで集光したレーザーを照射して気体をプラズマ化させ、これを放電路の中継点とすることで、パッシェン則によって放電電極間距離の決まる従来の火花放電よりも放電電極間距離の長い火花放電を発生させる手法を確立することを目的としている。本年度は、本格的な実験の初期段階として、本研究を遂行するための放電実験装置の製作と放電電極間距離の延長特性の測定に重点を置いた。 まず、様々な実験条件を得るために、高圧電源系と光学系を改良した。高圧電源系では、3つの高出力イグニッションコイルを直列または並列に接続可能な回路を作成して放電エネルギーの調整範囲を広げ、その特性を調べた。また、光学系では、半波長板と偏光ビームスプリッタを導入してNd:YAGレーザー光のエネルギーを可変とし、その特性を調べた。 次に、昨年度の試験的な実験から得られた基礎データを基にして本研究を遂行するための放電実験装置を製作し、基礎データを収集するための実験を行った。レーザーエネルギーを45mJ/pulse、放電エネルギーを20mJとして、レーザー光照射開始時刻から50μs後に電極へ電圧を印加し、電極への電圧印加のみの放電と、レーザー光の照射角度を高圧側の電極から40°、90°、140°とした放電について、放電確率が100%から0%になるまで電極間距離を調べた。電圧印加のみの放電の場合、放電確率が100%となる電極間距離は9mmであるのに対して、レーザー光を照射した放電における電極間距離は17~19mmと約10mm伸ばすことができた。また、レーザー光の照射角度を変えた場合、90°、40°、140°の順で放電確率が高くなり、90°において最も長尺な放電が形成できることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、(1)実験装置系及び計測系の構築、(2)放電実験装置の製作、(3)放電電極間距離の延長特性の測定、(4)放電電極間における放電経路の制御方法の検討及び提案、の4つの主要なタスクから構成される。本年度は、本格的な実験の初期段階として、主要タスクの(2)と(3)に重点を置いた。 (2)では、昨年度の研究で得られた基礎データを基に実験装置系を構築した。半波長板と偏光ビームスプリッタによってエネルギーを調整したNd:YAGレーザー光を、反射ミラーを用いて誘導し、凸レンズで集光して放電電極間にブレイクダウンプラズマを生成させる。レーザー光の照射角度は、電極を設置した回転ステージを回転させて設定する。レーザー光照射開始時間、電極への電圧印加開始時間およびイグナイターの充電時間は、ディレイパルスジェネレータを用いて制御する。この手法により、安定した実験が可能となった。 (3)では、レーザーで生成するプラズマの衝撃波方向と放電電圧印加方向との関係に着目して放電の基礎特性を調べるために、レーザー光の照射角度毎の放電確率の電極間距離依存性を取得することによってレーザー光の照射角度が放電特性に及ぼす影響を調べた。この結果から、放電電極間距離の延伸を観測し、レーザー光の照射角度が放電特性に及ぼす影響を確認することができた。 研究計画の内容を全て達成できてはいないものの、放電実験装置を製作して実験を行い、本研究の目的である長距離火花放電を確認できたことにより、次年度に実施予定の主要なタスク(4)に向けた準備を整えることができたことから、現在までの進捗状況は、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の実験結果を踏まえ、より精度良く詳細なデータを得るための実験を行い、長距離放電の特性をより詳細に把握する。レーザー入射方向と放電電圧印加方向との角度を変えながら、放電電極形状、放電電極間距離、放電エネルギー、レーザーエネルギー、パルス状電圧印加とレーザー照射の時間差をパラメータとして、 放電確率の放電電極間距離依存性を把握し、放電に必要なレーザーエネルギーや放電電圧しきい値を低減しながら放電電極間距離を延伸させる手法を検討する。放電確率は、同電極間距離にて数十回の試行により算出しているため、実験の効率化を図るために、電極間放電の有無及び回数の同定について、放電電流の計測とデータ収集により半自動化する。 さらに、レーザー照射点の多点化や、現在のシングルパルスレーザーからダブルパルスレーザーに変えることに伴う、(a)放電電圧しきい値の変化、(b)放電電極間距離の延伸の変化、(c)放電経路の変化、を明らかにする。得られた研究成果は、国内の学会等で発表する。
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Causes of Carryover |
研究計画当初の実験装置系において、様々な実験に対応できる機能を盛り込むことが難しいことが分かったため、本年度は、レーザーで生成するプラズマの衝撃波方向と放電電圧印加方向との関係に着目して放電の基礎特性を調べることを目的とする放電実験装置を製作した。そのため、本研究のタスクとしている「放電電極間における放電経路の制御方法の検討及び提案」で実施を予定している、レーザー照射点の多点化や、現在のシングルパルスレーザーからダブルパルスレーザーに変更するといった、実験内容のステップアップを図るための放電実験装置の改良や新たな部品を用意する必要が生じることとなった。また,実験の効率化を図るために、放電電流の計測とデータ収集を半自動化するための計測系の改良も必要になった。このようなことから,今年度使用する予定であった助成金の一部を次年度に使用することとなった。 次年度は早々に放電実験装置や制御系の改良を検討し、関連部品を用意する。また、実験で使用する消耗品費や、得られた研究成果を国内の学会等で発表する際の旅費等については、当初の計画に沿って使用する。
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