2021 Fiscal Year Research-status Report
レーザープラズマを用いた火花放電路の長距離形成に関する基礎研究
Project/Area Number |
17K05733
|
Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
大熊 康典 日本大学, 生産工学部, 教授 (80287581)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 火花放電 / レーザープラズマ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、レンズで集光したレーザーを照射して気体をプラズマ化させ、これを放電路の中継点とすることで、パッシェン則によって決まる従来の火花放電よりも放電電極間距離の長い火花放電を発生させる手法を確立することを目的としている。本年度は、電極間の電圧印加開始時間を基準としたレーザー入射のタイミングを実験条件として、レーザー入射角度と電極間距離を変えながら放電確率を調べる実験を行った。 実験は、電極間電圧印加時間を基準としたレーザー入射時間Δtが、-50μs(レーザー入射後に電極間電圧印加)、0μs(レーザー入射と同時に電極間電圧印加)、+50μs及び+100μs(電極間電圧印加後にレーザー入射)の4条件について、レーザー入射角度を接地側の電極から45°、60°、75°、90°(レーザー入射角度が放電電圧印加方向と垂直)、105°、120°、135°としたレーザーブレイクダウン支援火花放電を行い、それぞれの場合において、放電確率が100%から0%になるまで電極間距離を調べた。 その結果、レーザー入射角度一定にしてレーザー入射時間Δtを変えた場合、電極間距離はSI(Spark Ignition:通常の火花放電の意)、Δt = +100μs、 +50μs、 0μs、 -50μs、の順で長くなることが分かった。また、Δt=-50μs、0μsの条件では、レーザー入射角度が90°付近で電極間距離が長くなり、Δt=+50μs、+100μsの条件では90°付近で電極間距離が短く、135°付近で電極間距離が長くなる傾向が観測された。 このことから、レーザー入射時間を変えることにより、電極間距離のレーザー入射角度依存性を制御できる可能性があることが示され、放電路の長尺化に対するエネルギー効率の最適化を検討する際に必要となる成果が得られた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、(1)実験装置系及び計測系の構築、(2)放電実験装置の製作、(3)放電電極間距離の延長特性の測定、(4)放電電極間における放電経路の制御方法の検討及び提案、の4つの主要なタスクから構成される。本年度は、本格的な実験として、主要タスクの(3)及び(4)に重点を置いた。 (3)では、電極間印加電圧が最大値に近い時間帯(Δt=+50μs)でレーザーを入射すると放電電極間距離が最も伸びることから、レーザー入射と電極間電圧印加の時間差が放電特性に強く影響を与えるという成果を得ている。ただし、レーザー入射時に電極間電圧が印加されていないΔt=-50μsやΔt=0μsでも放電電極間距離の延長効果が見られという現象の解明には至っていない。 (4)では、レーザーで生成するプラズマの衝撃波方向と放電電圧印加方向との関係おいて、レーザー入射と放電電圧印加のタイミングが放電に強く影響していることが示唆される実験結果により,予想とは異なる新たな知見が得られた。これにより、研究目的をより精緻に達成するために精細な追加実験を行う必要が生じた。 本年度は新型コロナウイルス感染症対策による影響で十分な実験時間を確保できなかったことや、本研究の主目的であるレーザーの入射角度依存性に関する実験結果に新たな知見が得られたことにより、研究期間を再延長して次年度に研究成果を得るための本格的な実験を行う。以上のことから、現在までの進捗状況は、やや遅れていると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
レーザーエネルギーと放電エネルギーの割合についての最適化は、真空ポンプやデジタル圧力計、バルブ等の吸排気系・気体導入系を構築して放電装置を内装した圧力容器を使用できるように準備し、気体圧力もパラメータとしてレーザーの入射と電極間電圧印加の時間差の範囲をより広げた実験を行う。この実験で放電電極間距離の伸長が現れなくなるしきい値を調べ、レーザープラズマの衝撃波が火花放電に対してどのように影響するのかといった、レーザープラズマと通常の火花放電との相互作用について検討する。レーザープラズマの衝撃波方向と放電方向との関係では、レーザー入射方向と放電電圧印加方向との角度を変えながら、放電電極形状と放電電極間距離をパラメータとする実験を行い、電極間に形成される電界構造へのレーザープラズマによる影響を調べて検討する。また、放電確率の放電電極間距離依存性を把握し、放電に必要なレーザーエネルギーや放電電圧しきい値を低減しながら放電電極間距離を延伸させる手法を検討する。 さらに、レーザープラズマと放電電極間の火花放電のシュリーレン現象を捉える実験や高速度カメラによる撮影を行い、放電の様子を可視化して最適化の検証を試みる。 得られた研究成果は、国内の学会等で発表する。
|
Causes of Carryover |
本年度は、新型コロナウイルス感染症対策のための入構規制等により、実験が年度始めに立てた計画通りにできない状況にあったことや、新型コロナウイルス感染症対策に関する部局の業務により本研究に対するエフォートを十分に確保できなかったため、本研究のタスクとしている「放電電極間における放電経路の制御方法の検討及び提案」で実施を予定している、現在のシングルパルスレーザーからダブルパルスレーザーに変更するといった、実験内容のステップアップを図るための実験を次年度に実施することとなった。また、本研究の主目的であるレーザーの入射角度依存性に関する実験結果に新たな知見が得られたために研究目的をより精緻に達成するための精細な追加実験を行う必要が生じたことから、研究計画当初の実験装置系において、放電実験装置の改良に必要な新たな部品を用意する必要が生じることとなったため、今年度使用する予定であった助成金の一部を次年度に使用する。 次年度は早々に放電実験装置や制御系の改良に必要な関連部品を用意する。また、実験で使用する消耗品費や、得られた研究成果を国内の学会等で発表する際の旅費等については、次年度に予定していた計画に沿って使用する。
|