2017 Fiscal Year Research-status Report
Symmetry-controled magnetization dynamics of single-molecule magnets
Project/Area Number |
17K05811
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
梶原 孝志 奈良女子大学, 自然科学系, 教授 (80272003)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 希土類錯体 / 磁気特性 / 単分子磁石 / 分子構造 / 配位子場設計 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は常磁性ランタノイド錯体に見られる遅い磁化緩和現象の解明と構造的な視点からの物性設計を目的としている。d金属イオンを中心とする金属錯体と異なり、ランタノイド(III)イオンのf電子は結晶場の効果を限定的にしか受けないため、f軌道の縮退は保持され、f電子は自由電子のように振る舞う。これにより軌道角運動量が保存され、ランタノイド錯体の磁気特性は全角運動量Jによって記述される。結晶場の効果は全角運動量Jを持つ基底項に対して摂動的に寄与し、適切な対称性を持つ結晶場中では主軸に沿って磁化成分を持つ基底副準位が安定化され、個々の分子がS極、N極をもつ磁石として振る舞うようになる。このような「単分子磁石」としての振る舞いを分子構造の観点から明らかにすることを目的に、構造のモチーフの異なる3種類の錯体について合成と磁気特性の評価を行った。 1.Zn-Ln-Zn三核骨格を持ち、Zn-Ln-Zn軸に沿って結晶学的な3回軸を持つ錯体において、ミリメートルサイズの単結晶の育成に成功した。この錯体は結晶中ですべての分子が結晶学的な3回軸に沿って整列し、分子の主軸が平行な配列となっている。この単結晶を用いて磁化の異方性を精密に測定するための研究を海外の研究者との共同研究として開始した。 2.ピンサー型の3座配位子dpicを対称性良く配位させたLn単核錯体の合成と磁気特性の解明を行った。この配位子は二つのカルボキシル基を持ち、配位構造を保ったままプロトン化が可能である。つまり、配位原子の電荷密度を可逆的に調整することが可能なため、分子構造を保ったままで単分子磁石挙動をオン・オフが可能である。Dy錯体においてそのような挙動が発見された。 3.これまでの3回対称に加え、5回対称性をもつ錯体の構築を目指し、平面5座配位子の開拓と新たなLn単核錯体の合成にも成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前述のように、本研究の目的は常磁性ランタノイド錯体に見られる遅い磁化緩和現象(つまり、単分子磁石としての振る舞い)を錯体の構造の視点から制御し、設計することを目的としている。目指す方向として単分子磁石の特性の向上とともに、新たな特性の寄与が挙げられる。特に単分子磁石の特性を外的な要因(光の照射、プロトン化、酸化還元など)によりオン・オフできれば、単分子磁石のデバイス化などの応用に向けて大きな進歩となろう。実際、本研究において、単分子磁石とはならないと報告されてきた錯体において、プロトン付加によって単分子磁石化することが見出されたのは大きな発見である。分子構造にほとんど変化がないのにもかかわらず単分子磁石特性が発現した機構について、今後精密な測定に基づく機構解明が必要である。 単分子磁石特性の理論的な記述に関して、これまでは分子軌道法など実測に基づかない手法が選考してきた。しかし、分光学的な手法や磁気特性の測定など、実測に基づいて磁化課程の詳細を記述することが必要である。その一歩として単結晶を用いた詳細な磁気異方性の実測に着手できたことが現在までの研究の2つ目の成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究の進展に基づき、以下の3点について研究を遂行していく予定である。 1.Zn-Ln-Zn三核錯体の磁気異方性の直接観測。前述のように、これらの三核錯体についてはミリメートルサイズの結晶を育成することに成功している。また、結晶中ですべての分子がc軸に沿って配向していることから、縦磁場や横磁場を印加した際の磁化応答について詳細な実測が可能である。中心金属としてNdやTb、Dyなど電子構造の異なる様々な錯体について磁化の異方性の解明を行う。 2.ピンサー型配位子を持つ錯体も結晶の育成が容易であり、また、重水素化した配位子の合成が比較的容易であると考えられる。1.と同様に単結晶を用いた磁化の異方性の解明を行うとともに、電子構造の分光学的な解明を目指し、非弾性中性子散乱やミューオン分光法などの測定法の適応を検討する。非弾性中性子散乱は数100K程度のエネルギー分裂幅をもつ常磁性化合物の電子構造を直接観測できる唯一の手段と言える。全ての水素を重水素置換しなければならず、サンプル料も5g程度必要とすることから一般的な錯体において適応が難しい。しかし、dpicを配位子とする錯体は合成も容易であることから非弾性中性子散乱の測定に適していると言える。また、交流磁化率よりもタイムスケールの短いミューオン分光法により、より高温における速い磁化緩和過程についての知見が得られるものと考える。 3.5座配位子を持つ錯体の合成を推進し、結晶場設計に基づいて単分子磁石特性の優れた錯体の探索を推進する。
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Causes of Carryover |
共同研究者との連絡がメールなどで済んだため、共同研究のための旅費を必要としなかったことと、錯体の合成に関して所有している試薬で合成が可能であったため、試薬などの消耗品の購入が当初予定よりも少なかったため、次年度使用額が生じた。翌年度は学会発表や共同研究者との打ち合わせに旅費を用いるとともに、重水素化サンプル合成に向けて様々な重水素化試薬を購入する予定である。
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Research Products
(11 results)