2017 Fiscal Year Research-status Report
Quantitative analysis of free radicals by collaboration of effective magnetic moment method and magnetic resonance method
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17K05918
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
松本 信洋 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (30358048)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 信靖 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (70415644)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 一次標準直接法 / 一次標準測定法 / 磁気分析 / 磁性 / SQUID / ESR / 標準試料 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者が考案した有効磁気モーメント法は、試料に一定磁場を印可しながら磁気モーメントの温度依存性を測定・解析することによって、試料中に含まれているフリーラジカルの個数を物理量の測定値と物理定数等から直接得ることが可能な非破壊的定量分析法である。その磁気モーメントの測定では、超伝導量子干渉計(SQUID)を使用する。しかしながら、現状では、磁気モーメント測定値の再現性による不確かさは1.8%であり、有効磁気モーメント法における分析値の不確かさが大きい主要因となっている。通常、粉末状試料はゼラチンカプセルの底に入れて測定されることが多い。 今年度は、SQUIDによる磁気モーメント測定値の再現性向上を目的として、カプセル封入粉末試料よりも点双極子に近い理想的な試料である直径1mmの鉄イットリウムガーネット(YIG)単結晶球を選択し、その磁気モーメント測定値の再現性向上を試みた。円筒形の試料空間の中心軸(z軸)に対してΦ方向に回転させながら磁気モーメントを測定した結果、Φが0°から360°までの磁気モーメントは正弦波に似た変化を示した。その測定を13回繰り返した結果、各Φ測定における最小値の相対拡張不確かさ(暫定値)は0.1%となった。 また、二年目以降の測定試料として予定しているラジカル試薬のうち、DPPH粉末の単位質量あたりのフリーラジカル数を有効磁気モーメント法により測定した結果、試薬メーカーによって最大20%の差があった。元素分析計、高周波ESR,溶液NMRによる評価を実施した結果、ベンゼン分子でコンタミされたDPPH試薬と、純度がほぼ100%であるDPPH試薬があることが明らかになった。DPPHは、フリーラジカル定量における標準試料として良く用いられている試薬である。 なお、ミクロ電子天秤一式を購入し、次年度以降実施予定の精密秤量実施のために環境の整理、調整を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
SQUIDの磁気モーメント測定値の再現性の相対拡張不確かさが1.8%であったのが、0.1%程度まで飛躍的に向上し、当初の予想以上の成果が得られた。海外の研究協力者を共著として、同成果に関する国際学会発表(次年度7月)を申し込むと共に、論文原稿を執筆中である。 同研究協力者から、「あなたは、磁性研究者のコミュティに知らせるべき重要な実験結果を持っている」という評価コメントを頂いた。
また、検量線を必要とする吸光光度計またはESR等を用いたフリーラジカル定量分析時の「標準試料」として広く用いられているDPPH試薬が、試薬メーカーによって20%もの差があるという予想外の結果は、今後この情報はDPPHユーザーにとって有益な情報となりえる。この結果をまとめた論文1報を年度末に投稿したところ、査読者より「DPPHを含む標準試料の純度はかなり重要であり、本研究の結果は電子スピンサイエンスだけでなく、レドックスバイオロジーの研究にとっても著しいインパクトを与える」という評価コメントを頂いた。
その他、論文1報が出版された。一般的に、キュリー・ワイス(CW)則に従う物質は、温度が低下するに従って、キュリー・ワイス則から徐々に逸脱する傾向があり、CW則にフィッティングする温度範囲によって、キュリー定数が微妙に変化する。TEMPO粉末と安息香酸4-hydroxy TEMPO粉末について、磁気モーメントと温度の両方の不確かさを考慮するデミングの最小二乗法により、CW則へのフィッティングを行った時の残差二乗和の解析温度範囲依存性を確認した。また、液体ヘリウム温度付近までのESR測定も実施し、両方の結果を考慮しながら適切な解析温度範囲を決定することによって、両試料のフリーラジカル純度を求めた結果をまとめた論文である。その内容について国際学会で発表した結果、プレゼンテーション賞を受賞した。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)今年度の最大の成果であるSQUIDの磁気モーメント測定値の再現性が向上した後の次のステップとして、YIG球よりも体積が大きい粉末状試料の磁気モーメント測定値の補正方法を検討し、粉末試料の磁気モーメント測定値の正確さを向上させる。
(2)上述のYIG球の磁気モーメントを高精度磁気天秤を用いて絶対測定する。この測定を目的として約3ヶ月間、海外研究協力者のラボで在外研究を行う。
(3)「一次標準直接法」と同等の資格を有する有効磁気モーメント法で値付けした高純度フリーラジカル試薬を一次標準試料として、「一次標準比率法」と同等の資格を有すると考えている定量電子常磁性共鳴法(定量EPR)測定を行う。「一次標準直接法」は、前述の通り、物理量の測定値と物理定数等から分析対象成分の物質量を直接得ることが可能な絶対定量分析法を意味する。一方、「一次標準比率法」は、一つの適当な基準物質があれば、原理上、検量線を使用しないで未知物質の定量分析が可能である絶対定量分析法を意味する。有効磁気モーメント法によるフリーラジカル数の直接測定は、他の一次標準直接法と同様に、分析に多くの労力と時間を要する。そのため、有効磁気モーメント法によって単位質量あたりのフリーラジカル数が既知であるラジカル試薬を基準(一次標準試料)として、未知試料のフリーラジカル数を定量EPR法によって簡便に値付けることを試みる。ただし、最近の学会等で発表されているEPR装置によるフリーラジカル定量精度は数%~十%程度であるため、高精度化の検討を複数年度にわたって実施する。
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Causes of Carryover |
年度末に研究所内のネットワーク障害が発生し、それが長期化したため、各種物品等の調達請求が不可能になったことにより、残額が発生した。今年度の残額は、次年度の国際学会の参加費などに充てられる予定である。
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Remarks |
【受賞】 賞名:Symposium Award for Outstanding Presentation to CJK 2017、授与機関:日本分析化学会 環境分析・FIA・GC・IC・LC各研究懇談会, China-Japan-Korea Analytical Science discussion groups、受賞年月日:2017年9月10日
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