2017 Fiscal Year Research-status Report
Quantum control of non-thermal phonon states for high efficiency of quantum nanodevices
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17K06379
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
石川 陽 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (10508807)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 潔 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (30397038)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | フォノン支援励起エネルギー移動 / 非マルコフ課程 / コヒーレントフォノン / 非平衡開放系の量子ダイナミクス / フォノン制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、量子ナノデバイスの動作効率を支配する非熱浴的フォノン状態を理解し、量子ナノデバイスの高効率化へ向けた非熱浴的フォノン状態に対する量子制御を理論的に提案することが目的である。デバイスの省エネルギー化や高効率化は重要な課題であり、熱損失エネルギー制御に関する研究が盛んに進められているが、量子ナノデバイス動作は非熱浴的フォノン環境との非熱的エネルギーのやりとりに支配されているため、非熱浴的フォノン環境の量子状態制御が実現できれば、量子ナノデバイスの省エネルギー化や高効率化へつながると期待される。 平成29年度は、非熱浴的フォノン環境に対する非マルコフ量子マスター方程式を導出し、非熱浴的フォノン環境の量子状態を解明することを目指した。まず、注目系と非熱浴的フォノン環境が結合した系に対して時間依存射影演算子法を適用し、注目系および非熱浴的フォノン環境の両者に対する非マルコフ・非線形量子マスター方程式を導出した。導出された量子マスター方程式にはフォノン環境の非熱浴的性質を反映した非マルコフ性と非線形性が自然に含まれる。さらに、導出された量子マスター方程式を用いて、二次の自己相関関数を数値的に求め、非熱浴的フォノン環境の量子状態を評価した。 研究の成果として、量子ナノデバイスの基本要素である励起エネルギー移動をフォノン環境が支援するメカニズムが二種類存在することが分かった。それらのうち一方は熱平衡状態にある熱浴的フォノン環境の効果であるが、もう一方はコヒーレント状態にある非熱浴的フォノン環境の効果であることが分かった。従来までの研究では、フォノン環境は熱平衡状態にある熱浴としてしか考慮されてこなかったが、本研究で非熱浴的な非平衡・動的フォノン環境の重要性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、非熱浴的フォノン系に対する非マルコフ量子マスター方程式の導出と、励起移動を増強・抑制する条件下における非熱浴的フォノン状態の解析を目標として研究を進め、おおむね順調に進めることができている。 非熱浴的フォノン系に対する非マルコフ量子マスター方程式の導出については、時間依存射影演算子法を用いて、注目する電子系だけではなくフォノン環境に対する量子マスター方程式も導出することができた。非熱浴的フォノン状態の解析については、フォノン系に対する二次の自己相関関数を数値的に評価することで、励起エネルギー移動を支援する非熱浴的フォノン環境がコヒーレント状態にあることを解明することができた。また、現状では、当初目標として掲げたフォノン量子数確定状態や単一フォノン状態の評価には至っていないが、フォノン系に対する量子マスター方程式へ高次のフォノン系の相関関数を取り入れることによって可能になると予想が立てられており、おおむね計画通りに研究を進めることができている。 当初の研究計画には含まれていなかったが、非熱浴的環境とし光子系を考え共振器QED系における階層的環境構造に注目することで、レーザーと超蛍光のクロスオーバーに対する全量子論を構築することもできた。この研究成果も非熱浴的環境の量子状態制御に対する研究を従来の想定とは異なる視点から進展させることにつながり意味があると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、まずフォノン系の量子マスター方程式へ高次のフォノン系の相関関数を取り入れ、励起エネルギー移動に対するフォノン量子数確定状態や単一フォノン状態の寄与を評価する。励起エネルギー移動に寄与する非熱浴的フォノン環境の量子状態を明らかにすることができたら、それらフォノン量子状態に対する制御を記述するため、量子マスター方程式へ量子測定過程の効果を導入し、量子測定過程をともなう非平衡開放系の量子緩和散逸ダイナミクスを記述するための理論的枠組の構築を目指す。その理論手法をもとに、励起エネルギー移動に対する量子測定によるフォノン系の二次の自己相関関数の変化を評価し、量子測定過程にともなう非熱浴的フォノン環境の量子状態変化を解析する。 最終年度へかけて、量子測定過程と非熱浴的フォノン環境の量子状態変化の関連性を解明することができたら、具体的な量子ナノデバイスのモデルを想定し、非熱浴的フォノン環境を制御することによって、量子ナノデバイスの動作効率を表す性能指針(情報伝達度や忠実度)がどのように変化するのかを評価し、非熱浴的フォノン状態の量子制御による量子ナノデバイスの高効率化に対する可能性を探る。 同時に、非熱浴的環境を光子系とみなしたときに起こるレーザーと超蛍光のクロスオーバーなど特異な現象についても研究を進め、非熱浴的環境と結合した系における非平衡開放系の物理を包括的に理解することを目指す。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由: 研究の進捗途中で数値解析に必要な高性能ワークステーションのスペックを評価した結果、想定よりもスペックを落とした安価な計算機を購入することで充分に研究を進展させることができたため。また、論文掲載料を計上していたが、掲載料無料の学術雑誌へ論文を投稿し受理されたため。 次年度使用額の使用計画: 未発表の研究成果をまとめ学術論文として発表する際の論文掲載料として用いる。また、国内外学会において研究成果を発信する際の参加料および出張旅費として用いる。
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