2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K06396
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Research Institution | Hachinohe Institute of Technology |
Principal Investigator |
小田島 聡 八戸工業大学, その他, 特任講師 (20518451)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
笹倉 弘理 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (90374595)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 単一光子 / 半導体量子ドット / 長期安定性 |
Outline of Annual Research Achievements |
情報化社会の持続的発展において、情報通信の安全性の確保は必須課題である。現在の暗号通信方式は解読に要する膨大な計算コストにより安全性が担保されるのに対し、量子暗号通信は量子力学的な現象である観測による波束の収縮を用いるので、原理的にありとあらゆる盗聴が検知可能である。そのため情報通信の恒久的な安全性を保証するものとして、量子暗号鍵配送技術の確立に大きな期待が寄せられている。本研究は量子暗号鍵配送技術に基づく量子情報通信を、実験室段階から実際の通信網への応用へと昇華・発展させることを目指し、その目的遂行のため、既存の光ファイバー通信網への接続効率が高く、かつ振動や温度変化など外乱に対し強固で恒久的利用が可能な単一光子発生源の開発を行なう。 単一光子発生源としては、既存の半導体技術との親和性が高く現実的なデバイス作製を検討する上で有利である半導体量子ドット(QD)成長膜を用いる。一般に分子線エピタキシー(MBE)法により成長されたQDは1e+8~1e+10 個/cm2 の数密度を持つが、単一光子発生源として用いるためには、巨視的数のQDより選別されたごく少数のQDに個別にアクセスできなければならない。計測で用いる単一モードファイバーは数マイクロメートルのコア径を持つが、母体QD試料を加工せずファイバーコアにそのまま結合すると、結合するQDの数が数百個に及ぶため単一光子としての純度を維持することが困難になる。そこで、QD成長半導体膜に微細加工を施しピラーアレイ化することで、擬似的にQD数密度を減少させる手法をとる。H29年度はピラーサイズおよびピラー間隔といった形状最適化を行ない、本研究の第一関門である「光子の単一化」を十分な純度および十分な安定性をもって実現することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では高純度かつ高耐性な単一光子発生源を実現するために、半導体量子ドット試料に対する①微細構造の最適化(単一光子としての高純度化)、②金属埋め込み構造の作製(光子取り出し効率の向上)、③冷凍機結合型光源の開発(長期間連続運転が可能な光源の開発)を主に行なう。このうちH29年度の主要課題は①微細構造の最適化である。単一光子発生源は半導体量子ドット試料をピラーアレイ(円柱格子)構造に成形することで実現されるが、ピラーサイズ・格子定数といった形状最適化を行なうことにより高純度な単一光子生成が可能となった。作製された光子発生源において、光子の自己相関測定を行なうことにより光子の単一性を検証し、更には数日間に及ぶ連続実験により単一光子発光源としての長期安定性を確認するに至った。
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Strategy for Future Research Activity |
半導体量子ドット試料における微細構造の最適化により、高純度な単一光子発生を実現するに至った。しかしながら発光源からの光子取り出し効率は低く、今後は発光源からの光子取り出し効率の向上および取り出した光子とファイバー端面との結合効率の向上が重要になる。発光源からの光子取り出し効率の向上については、当初の計画通りH30年度に②金属埋め込み構造の作製を行なうことにより問題解決が見込まれる。また高屈折率樹脂等を用いることにより、作製された発光源とファイバー端面間での結合効率の改善が期待される。また現状では単一光子発生源を液体He中で冷却させているが、この方法では数週間毎に液体Heを補充させる必要があるため、長期間安定性を真に実現することは難しい。そこでH30年度後半からH31年度において、電気駆動の冷凍機に単一光子発生源を組み込む構造を開発することで、単一光子発生源としての恒久的な安定性の実現を目指す。
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Causes of Carryover |
本研究における試料作製において、電子ビーム露光装置・ドライエッチング装置など大型機器の利用は必要不可欠である。北海道大学での共同利用施設を活用し本研究を遂行したが、予定を上回るペースで作製試料の最適化を行なうことができたため、装置利用料金を大幅に削減することに成功した。また試料作製に必要な材料・薬品類についても既存の品々を有効活用したために予算の効率的活用が可能となった。比較的順調に研究結果を得ることができたため、発生した次年度使用額を研究成果発表のための国際会議参加経費に充てる予定である。
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