2017 Fiscal Year Research-status Report
Regulation of AMPA receptor trafficking by the phosphorylation of TARP
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17K07048
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
松田 信爾 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (60321816)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | AMPA受容体 / TARP / シナプス可塑性 / SNX17 / LTP / リン酸化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請研究では、シナプス可塑性の分子実体であるAMPA受容体の細胞内輸送の制御機構を、AMPA受容体の副サブユニットであるTARP(Transmembrane AMPA receptor Regulatory Protein)と様々な輸送制御タンパク質群との間のリン酸化によって制御されるダイナミックな相互作用という視点から解明し、シナプス可塑性の 全体像ならびに記憶・学習の分子メカニズムを明らかにしていくことを目的としている。今年度は、野生型TARPあるいは9個のリン酸化されるセリン残基を様々な組み合わせでアスパラギン酸(リン酸化状態を模倣)やアラニン(脱リン酸化状態を模倣)に置換した変異TARPのC末領域をGST融合タンパク質として精製し、このタンパク質にSNX17が結合するか否かをGST-pull-down法によって解析した。その結果4つ以上の部位がリン酸化されたTARPはSNX17との結合性が失われることが示された。またこれらの変異体を培養海馬神経細胞内に導入し、LTPおよびLTDの誘導に対する影響を解析したところ、LTP誘導時およびLTD誘導時ともに細胞表面のAMPA受容体量の変化は見られなかった。これらの結果からTARPとSNX17の結合がシナプス可塑性に重要である可能性が示唆された。さらにsiRNAを用いたSNX17をノックダウンし、LTPの誘導にどのような影響があるかも解析した。その結果siRNAによりSNX17をノックダウンした神経細胞ではLTP誘導刺激を加えても細胞表面へのAMAPA受容体の輸送は見られなかった。これに対しscramble RNAを導入した細胞ではLTP誘導刺激により細胞表面のAMPA受容体の数が増加することが示された。以上の結果よりSNXとTARPの結合によりLTP誘導時にAMPA受容体の輸送が制御されていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究成果として【課題1】(SNX17、AP-1、synt7 と TARP との結合がどのように制御されているかを解明)に関しては、TARPの9つあるリン酸化部位の内、4つ以上の部位がリン酸化された場合はSNX17と解離することが明らかになった。また、SNX17との結合性が失われた変異TARPを神経細胞に導入するとLTPおよびLTD誘導刺激を与えても細胞表面のAMPA受容体の数に変化が起きないことが明らかになった。このことからシナプス可塑性の誘導にTARPとSNX17との結合が重要であることが示唆された。そこで【課題 3】(これらのタンパク質との制御された結合の生理学的意義、つまり AMPA受容体-TARP複合体の細胞内輸送やシナプス可塑性、および脳機能にどのような役割を果たしているかを解明)のために、神経細胞にsiRNAを導入してSNX17のノックダウンを行った。事前にはsiRNAによるノックダウン効率が悪く、十分にタンパ 質量が減少しない可能性も考えられたが、実際にはsiRNA導入により有意なSNX17のタンパク質量の減少が見られた。そこでこの神経細胞にLTP誘導刺激を加え、細胞表面へのAMPA受容体の輸送が引き起こされるか否かを免疫組織化学的手法を用いて解析したところ、LTP誘導刺激前後で細胞表面のAMPA受容体の量は変化しなかった。これに対してscramble RNAを導入した神経細胞では細胞表面のAMPA受容体の量は有意に増加した。これらの結果からSNX17のシナプス可塑性への関与が示唆されている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究結果によりSNX17とTARPとの結合がシナプス可塑性誘導時のAMPA受容体の細胞内輸送に重要な働きをしている可能性が示唆されてきている。今後はSNX17をノックダウンした神経細胞でAMPA受容体の輸送のどの段階に異常が生じているのかを明らかにしていく。小胞体、ゴルジ体、あるいはエンドソームのマーカータンパク質とAMPA受容体との共局在を解析することにより、輸送のどの段階に異常があるのかを解析する。さらにpH感受性のGFP(SEP)を融合させたAMPA受容体のGluA1サブユニットをSNX17をノックダウンした神経細胞に導入しlive imagingによりLTP誘導刺激によって細胞表面へ輸送されないのか、あるいは輸送は行われるが細胞表面で安定的に存在できないのかを明らかにしていく。またSNX17以のタンパク質AP-1、synt7とTARPとの相互作用の制御機構もGST―TARPC末融合タンパク質を用いて解析すると共に、これらのタンパク質のノックダウンも行い、シナプス可塑性の分子機構の全体像の解明を目指していく。 また、TARPは上記の3つの輸送制御タンパク質以外にも様々なタンパク質と相互作用する可能性が考えられる。TARPと結合する新たなタンパク質を特に輸送関連タンパク質に着目してYeast two hybrid法や免疫沈降法などの方法を用いて探索していく。 これらの研究を通してシナプス可塑性の分子実体であるAMPA受容体の細胞内輸送の詳細を明らかにしていく。
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Causes of Carryover |
当初は平成29年度中にSNX17,AP-1,synaptotagmin-7とTARPとの結合制御メカニズムを解析する予定であった。しかし、SNX17とTARPの結合制御メカニズムの解析が他に先行して進み、さらにSNX17と結合しないTARPを神経細胞に発現させたところシナプス可塑性の誘導に異常が生じた。そこで、AP-1,synaptotagmin-7とTARPとの結合制御機構やこれらのタンパク質のシナプス可塑性の影響を解析する前にSNX17の機能解析を優先して行った。このためAP-1,synaptotagmin-7の変異体の作製やノックダウンにかかる物品費に残額が生じた。 一方これらの研究も当初の目的の1つであるシナプス可塑性の全体像の解明には必須のものであるため、次年度以降には必ず実施する予定である。
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