2017 Fiscal Year Research-status Report
視床下部新規領域が司るburying行動と自閉症における常同行動との関係性
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17K07080
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Research Institution | Nara Medical University |
Principal Investigator |
堀井 謹子 奈良県立医科大学, 医学部, 講師 (80433332)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ウロコルチン3 / エンケファリン / 不安 / 警戒 / リスクアセスメント / 新奇物体 / 視床下部 / 神経ペプチド |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者らは、マウス視床下部に新たな領域を発見し、Perifornical area of the anterior hypothalamus (PeFAH)と命名した(Horii-Hayashi et al., EJN, 2015)。平成29年度は、PeFAHを構成する主要ニューロンであるウロコルチン3/エンケファリン(Ucn3/Enk)共発現ニューロンをターゲットに、薬理遺伝学手法DREADによる神経活動操作と、ジフテリアトキシン(DTA)によるニューロン除去を行い、行動や情動への影響を調べた。 Ucn3/Enkニューロンを活性化すると、ホームケージ内において床敷を特定の隅へ盛るPiling-like behaviorが観察された。本行動は、床敷を入れた新規ケージでは生じず、探索行動にも変化は見られなかった。Ucn3/Enkニューロン活性化マウスの情動変化を調べるために、オープンフィールド試験と新奇物体試験を行った。その結果、新奇空間に対する不安や行動量に変化は無かったが、新奇物体に対するリスクアセスメントが亢進していた。また、不安や常同行動の指標試験であるMarble burying試験を行ったところ、埋められたビー玉の数が増加していた。従って、新奇物体に対する不安ならびにそれに伴う警戒行動が上昇していると考えられた。一方、これらニューロンの選択的除去マウスでは、上記のいずれの試験においても変化は認められなかった。しかし、ホームケージ内にて新奇物体試験を行った結果、新奇物体を執拗にかじるgnawing behaviorが見られた。更に、ホームケージ内でショックプロッド試験を行った結果、一定時間内に電気ショックを受ける確率が有意に上昇した。 以上の結果から、Ucnn3/Enkニューロンは、新奇物体に対する不安や警戒、リスクアセスメント行動の制御に関与すると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度における主な実験成果は、ジフテリアトキシン(DTA)によるウロコルチン3/エンケファリン(Ucn3/Enk)共発現ニューロンの選択的除去実験で、行動レベルにおける影響を捉えることができた点である。 薬理遺伝学DREADDによるこれらニューロンの活性化は、新奇環境における新規物体探索や、新奇物体を埋めるburying行動が亢進昇することから、本ニューロンは新奇物体に対する不安や常同性を伴うリスクアセスメント行動の増加に関わる事が示唆された。しかし、これらニューロンの選択的除去は、いずれの試験においても変化は認めらず、コントロールと差異はなかった。しかし、マウスにとって安全が確保されているホームケージ内に新奇物体を入れた場合は、通常はほぼみられない、新奇物体をガリガリかじるというgnawing behaviorが観察された。このことは、空間的な安全性が確保されているような環境下では、新奇環境において新奇物体試験を実施することに比べ、より空間的な警戒を排除した環境で、新奇物体に対する行動を評価しているのではないかと考えられる。このような、空間的安全性が保たれた環境においては特に、これらニューロンが新奇物体に対する不安や警戒心の維持に重要であることが示唆される。また、ホームケージ内で行ったショックプロッド試験では、一定時間内に電気ショックを受ける確率が上昇したことから、これらニューロンが、特に馴化環境における身の安全確保のためのdefensive behaviorとして機能するとが考えられる。 また、これらニューロンの活性化がもたらす行動は、常同性や繰り返し性の高い行動であること、更に、不安や警戒といったネガティブな情動とも関係することから、強迫性障害や、自閉症との関係性についても、更に調べていく必要性があると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究結果から、申請者は一つの仮説を立てるに至った。新奇物体に対するリスクアセスメント行動は、新奇物体に対する不安や警戒心を抱きながらも、物体に接近し情報を収集するという、極めて葛藤的な情動要素を含む行動である。Ucn3/Enkニューロンは、外側中隔へ投射していることがわかっているが、過去知見に基づくと、外側中隔のUcn3受容体(CRHR2)陽性ニューロンを活性化すると、不安が上昇することが報告されている(Anthony et al., Cell, 2015)。しかし、CRHR2ニューロンの活性化は、新奇物体への不安を上昇させ、リスクアセスメント行動も抑制し、物体への接近そのものが抑制されている。 これらのことから申請者は、新奇物体への不安と接近行動を同時に可能とするには、CRHR2とEnk受容体であるμORの同時活性化が重要なのではないかと考えるに至った。CRHR2もμORもGタンパク質共役型受容体であるが、恐らく、カップリングするGタンパク質の種類が異なり、情動的な葛藤状態を生み出しているのではないかと考えている。特にμORは、Giとカップリングすることが既に知られており、ニューロンの活動に対しては抑制的に働く。また、一般的にEnkは、快情動と関係するとも言われており、CRHR2による不安とEnkによる快もしくは安堵のような情動が、リスクアセスメントという葛藤状態にある行動を生み出すのではないかと考える。 今後は、外側中核におけるそれぞれの神経ペプチドの役割について調べ、また、常同行動との関係性、自閉症モデルであるBTBRの脳構造について調べていく予定である。
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Causes of Carryover |
平成29年度に予定した実験による成果が得られ、年度末頃より論文執筆へと移行した。そのために、動物代や実験に関わる消耗品等のコストが減少したために生じたものと思われる。翌年度分として請求した助成金は、論文執筆が終了次第、英文校閲や、投稿、出版に必要な資金の一部として使用する予定である。
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Research Products
(3 results)