2017 Fiscal Year Research-status Report
サメ類の繁殖内分泌機構の分子基盤の構築と人為産卵促進技術への応用
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17K07472
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
内田 勝久 宮崎大学, 農学部, 教授 (50360508)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森山 俊介 北里大学, 海洋生命科学部, 教授 (50222352)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 比較内分泌学 / 繁殖生理 / 軟骨魚類 |
Outline of Annual Research Achievements |
サメ類は卵生から胎生に至る多様な繁殖様式を獲得している。また、この動物群は重要な海洋資源であり、近年、混獲や乱獲などから資源量の減少が懸念されている。しかし、サメ類の資源保護に必須である繁殖生理学や繁殖内分泌学に関する知見は極めて乏しい。研究代表者らは、これまで、小型卵生種であるトラザメをモデル魚種とし、生殖内分泌中枢である下垂体から2種類の生殖腺刺激ホルモン(GTH)の遺伝子構造を同定している。また、サメ類に特有の生殖輸管系器官のひとつである、卵殻腺で機能発現する遺伝子群を網羅的に解析している。本研究の目的は、トラザメの生殖輸管系の機能発現プロセスと下垂体GTHを含めた生殖内分泌因子による制御機構の分子基盤を理解し、生理活性を持つホルモン分子を基盤として人為産卵促進技術を確立することにある。具体的には、以下の4つの計画から成る。すなわち、①.産卵周期プロセスの理解と、生殖輸管系の機能発現遺伝子群を探索する、②.生殖輸管系の機能マーカー遺伝子と内分泌関連遺伝子群の機能的な連関を理解する、③.生殖関連ホルモン(GnRHやGTH)を生化学的なアプローチにより作出し、生殖輸管系を用いて機能解析を行う、④.上記の成果を基盤とし、ホルモンを用いた効果的な人為産卵促進技術を、軟骨魚類において初めて確立することである。 本年度は、卵殻腺で発現する遺伝子群の発現動態を明らかにするとともに、産卵周期の理解とそれに伴う内分泌因子の動態理解の第一歩として、産卵周期に伴う性ステロイドの測定を試みた。また、生殖輸管系の機能制御にかかわる生殖内分泌関連因子として、脳から生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRHa)とその受容体遺伝子の同定を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
トラザメの卵殻腺は、組織学および組織化学的に異なる4つの分泌層(Club zone, Papillary zone, Baffle zone, Terminal zone)から構成され、卵殻腺内で最も広い領域を占めるBzが卵殻形成に主要な働きをもつことが組織化学的に示唆された。次に、Bzよりトラザメのコラーゲン(col)およびコラーゲンの翻訳後修飾に係わるコラーゲン合成関連酵素をコードする遺伝子構造を同定した。組織特異的発現解析の結果、これら2種の遺伝子は、成熟個体の卵殻腺において高い発現を示した。さらに、in situ hybridization法による遺伝子発現部位の解析により、col遺伝子が卵殻腺のBzのみに発現し、Bzの上部、中心部、下部において異なる発現強度を示した。これらの結果から、Bzが卵殻腺におけるコラーゲン合成に重要な役割を担う分泌層であり、この分泌層がさらに機能的に細分化される可能性が示唆された。一方、上記の実験により明らかになった卵殻腺機能関連分子の制御因子を明らかにするために、トラザメの脳より生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRHa)とその受容体遺伝子の同定を行い、分子構造を明らかにしている。また、産卵周期に伴う血中の性ステロイドホルモン(estradiol-17β,testosterone,11-ketotestosterone,progesterone)の分泌動態を解析している。 以上の成果により、産卵周期の理解とそれに伴う血液サンプルの採取と解析、卵殻腺での機能分子の動態の理解、GnRH分子とその受容体分子の同定など、次年度へつながる成果の集積が図られ、初年度の計画としてはおおむね順調に進んだと評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
トラザメは、2個の成熟卵を排卵し、左右の卵殻腺内で卵殻形成を完了し、周期的に産卵する。そのためトラザメの生殖輸管系は、周期性と同期性を兼ね備えた生殖器官であり、生殖内分泌因子の機能評価に適している。今後は、トラザメのGTHや性ステロイド受容体遺伝子の同定を進めるとともに、産卵周期に伴うそれらの遺伝子群と卵殻腺の機能マーカー遺伝子群の発現動態をリアルタイムPCR法により定量解析するとともに、in situ hybridization法による組織レベルでの発現解析を行ない、生殖輸管系の機能発現プロセスを分子レベルで捉える。また、視床下部GnRHや下垂体GTHとそれらの受容体遺伝子の発現動態や、性ステロイドとその受容体遺伝子の分泌・発現動態を明らかにし、トラザメの産卵周期プロセスを制御する内分泌学的な分子基盤を構築する。 さらに、産卵周期を促進する生殖関連ホルモンを見出し、それらのホルモンを単独、もしくは、複合的に個体へ投与し、生殖輸管系の機能マーカー遺伝子の発現変動、排卵や産卵の頻度を解析することで、ホルモン分子の作用を個体レベルで評価したい。
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Causes of Carryover |
本研究を進めるに当たり、成熟し、産卵周期を示すトラザメの入手は必須である。しかし、平成29年度計画の終了間際に、産卵周期個体の確保ができず、新たに、成熟産卵個体の入手やサンプリングを平成30年度の初めに実施することになった。そのため、本年度の残経費を、次年度経費の一部として年度はじめに使用する計画を立て、平成30年度の経費と合わせて、効率的に使用することとした。 具体的には、成熟個体の供与をお願いしている愛知県碧南水族館への旅費と、水族館での血液サンプルの採取に関わる消耗品の購入を予定している。
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