2017 Fiscal Year Research-status Report
非神経性アセチルコリンによる腸幹細胞の分化・増殖、維持機構の解明
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17K07495
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Research Institution | Suntory Foundation for Life Sciences |
Principal Investigator |
高橋 俊雄 公益財団法人サントリー生命科学財団, 生物有機科学研究所・統合生体分子機能研究部, 研究員 (20390792)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 細胞・組織 / シグナル伝達 / 生体分子 / 生理学 / 発生・分化 / 非神経性アセチルコリン / オルガノイド / 腸幹細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、チャネル型nAChRsを介した非神経性AChの制御についての研究を推進した。選択的アゴニストであるニコチンを作用させると、腸オルガノイドの成長及びマーカー遺伝子の発現に対して促進効果を示し、一方、選択的アンタゴニストのメカミールアミンを作用させると、抑制効果を示すことを見出した。次に、ニコチン及びメカミールアミン投与後のチャネル型nAChRs下流域に働く遺伝子群を、RNA-Seq法によるトランスクリプトーム比較解析を行った結果、Wntシグナルの1つであるWnt5aの発現が顕著に変動することを突き止めた。薬理実験の結果から、Wnt5aはニコチンと同様、腸オルガノイドの成長及びマーカー遺伝子の発現を促進し、Wnt5aの分泌阻害剤であるIWP-2で処理すると、抑制効果を示すことを見出した。さらに、メカミールアミンの効果抑制は、Wnt5aによりレスキューされることを確認した。このことは、チャネル型nAChRsシグナルの下流域にWntシグナル(Wnt5a)が関与していることを強く示唆する結果である。抗体染色の結果から、チャネル型nAChRsサブタイプがα2/β4であることを明らかにできた。また、α2/β4及びWnt5aが腸幹細胞のニッチの役割を果たしているパネート細胞に局在していることから、非神経性AChの刺激を受けたパネート細胞がWnt5aを放出し、傍分泌により腸幹細胞の分化・増殖を促進しているという結論に達した。上記の内容は、オープンアクセス雑誌Int. J. Mol. Sci. に受理された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)チャネル型nAChRsシグナルとWntシグナル(Wnt5a)の両シグナルによる腸幹細胞の制御についての論文を作成し、オープンアクセス雑誌Int. J. Mol. Sci. に投稿し、受理された(Takahashi et al. Int. J. Mol. Sci. 2018, 19, E738)。 2)これまでに得られた成果を踏まえて(Takahashi et al. FEBS J 2014)、代謝型mAChRsのすべてのサブタイプのノックアウトマウス(M1-M5-KO及びM2/M3-double-KO-マウス)を得て、個体レベルでの解析を行う環境を整えた。 3)代謝型mAChRs-KO-マウスについては、現在、交配・繁殖中なので、個体数を確保できたM2/M3-double-KO-マウスの解析を行った。この欠損マウスから腸オルガノイドを作製し、その他のアセチルコリン受容体の遺伝子発現を定量PCRで解析したところ、mAChRs (M1,M4,M5)サブタイプの変動は見られなかったが、チャネル型nAChRsのサブユニットのαタイプ(α1,2,5,10)及びβタイプ(β2,3)に遺伝子発現の抑制が見られた。このことから、腸幹細胞の幹細胞性を維持するとともに、腸幹細胞の枯渇を防いでいる可能性が推察される。
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Strategy for Future Research Activity |
1)チャネル型nAChRsを介した非神経性アセチルコリンの幹細胞制御 チャネル型nAChRsシグナルとWntシグナル(Wnt5a)の両シグナルによる腸幹細胞の制御についての論文が受理されたので(Takahashi et al. Int. J. Mol. Sci. 2018, 19, E738)、α2/β4を構成するサブユニットの欠損マウスの作製に着手する。具体的にはCRISPR/Cas9ゲノム編集システムを用いて、α2サブユニット遺伝子、β4サブユニット遺伝子、及び両遺伝子のノックアウトマウスを作出する。 2)代謝型mAChRsを介した非神経性アセチルコリンの幹細胞制御 5種類の代謝型mAChRs-KOマウス及びM2/M3-double-KOマウスの解析に着手する。各々の代謝型mAChRsノックアウトマウスの腸から腸オルガノイドを作製し、得られた成果(Takahashi et al. FEBS J 2014)の検証を行うとともに、代謝型mAChRsの下流域に働く遺伝子群を網羅的に解析し、各々のサブタイプのシグナル伝達経路を明らかにする。 3)代謝型mAChRsとチャネル型nAChRsとの機能的相互作用の解析 代謝型mAChRsとチャネル型nAChRsによる腸幹細胞制御の拮抗的二重支配を想定し、それらの機能的相互作用を明らかにする。具体的には、上記の代謝型mAChRs-KOマウス及びチャネル型nAChRs-KOマウス(作出予定)において、欠損されていないACh受容体の発現変動を解析する。
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