2017 Fiscal Year Research-status Report
海藻アラメからエタノールと食品機能成分を生産する新技術開発と海藻産業への応用研究
Project/Area Number |
17K07936
|
Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
辻 明彦 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(生物資源産業学域), 教授 (20155360)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | バイオマス / フロロタンニン / 海藻 / セルラーゼ / セルロース |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、褐藻類からエタノール生産とポリフェノールであるフロロタンニンの分離、応用を組み合わせた、海藻利用技術を開発し、海藻を使った新産業の育成に貢献することである。 平成29年度の計画は、①アメフラシ110kDa BGL、EHEPの大量発現系の構築、②アミエビ由来糖化酵素の開発により、効率的な褐藻類の糖化機構を開発すること、さらに、褐藻類に含まれる機能成分であるフロロタンニンと特異的に結合するアメフラシフロロタンニン結合タンパク質(EHEP)の応用を図るための③EHEPのフロロタンニン結合機構の解析である。平成29年度は、計画に従って以下の研究を進めた。 アメフラシ110K BGL, EHEPの大量発現系の構築については、110K-BGLは酵母による発現、EHEPは糖鎖を含まないので大腸菌による発現を試みた。110K BGLは酵母による発現には成功しなかった。EHEPは、GST融合タンパク質として超音波処理した大腸菌の不溶性画分に回収されたが、8M尿素液で可溶化後、透析操作で徐々に尿素濃度を下げることにより、最終的に活性のあるEHEPを得ることができた。また、アメフラシ消化液に含まれる21K セルラーゼのセルロースのセロビオハドロラーゼ非依存性のセルロース分解機構における役割について明らかにした。アミエビ由来糖化酵素に関しては、酸処理したアミエビ抽出液をメイセラーゼ(トリコデルマ由来セルラーゼカクテル)と併用することにより、ワカメめかぶの効率的な糖化反応条件の検討を行った。アラメ等褐藻類に含まれる海藻ポリフェノールを容易に褐藻類から分離し、機能成分として利用できるように、EHEPとフロロタンニンとの結合解離機構について解析した。さらに、EHEPの結晶構造解析より予想されたフロロタンニン結合部位の変異体を大腸菌発現系で作成し、結合様式について解析した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
EHEPの大腸菌発現系を以下に示すように構築した。EHEPをGST融合タンパク質として発現させ、超音波処理後、融合タンパク質を封入体として回収し、8M尿素液で可溶化した。次に6M, 4M, 3M, 2M, 1M, 0Mの尿素液で透析し、徐々に尿素濃度を下げることにより水溶性のEHEPを得た。このEHEPは、野生型EHEPと同様にフロロタンニンによるBGLの阻害を抑制した。 21K セルラーゼはアメフラシ消化液中で最も濃度(0.1mg/ml)が高いが、カルボキシメチルセルロースに対する活性は他のセルラーゼに比べ非常に低く(約50分の1)、そのセルロース分解における役割は不明であった。今回、21Kセルラーゼは、セルロースに強固に安定的に結合し、エンドグリコシダーゼ活性に加えて、セロビオースやセロトリオースを遊離するエキソグリコシダーゼ活性を有することを明らかにした(第69回日本生物工学会大会発表2017年9月)。 セルロース系バイオマスの利用における最も解決すべき問題は、セルラーゼコストが高すぎることにある。安価なアミエビの粗抽出液を市販セルラーゼ(トリコデルマ由来メイセラーゼ)と併用することにより、未利用の海藻資源であるワカメ茎やワカメめかぶの糖化反応を効率化し、セルラーゼコストを下げる方法を開発した。 EHEPはフロロタンニンと特異的に結合し、不溶性の沈殿を形成する。この沈殿物からフロロタンニンを回収する方法について検討したところ、沈殿物をpH8.0以上の緩衝液で懸濁し反応すると、沈殿物は可溶化しEHEP/フロロタンニン複合体が解離することを見出した。北海道大学との共同研究によって明らかにしたEHEPの立体構造から推定されるフロロタンニンとの結合に重要なアミノ酸残基の変異体を大腸菌で作成し、変異体の活性から、結合に重要なアミノ酸残基を明らかにした。
|
Strategy for Future Research Activity |
未利用の褐藻類としてワカメメカブの糖化条件を検討し、メカブを水洗、酢酸処理と熱処理を行い、メイセラーゼ(トリコデルマ由来セルラーゼカクテル)とアミエビ抽出液を併用することで、メイセラーゼ単独で行った場合の必要量を10分の1以下に減らせることが判明したので、今後は長期保存可能で安価なアミエビセルラーゼ標品の調整法について検討を進め、さらに糖化液を発酵させ、エタノールや香気成分の分析を行う予定である。具体的には、アミエビ抽出液を熱処理、酸処理、バッチ法によるイオン交換ゲルによる精製を組み合わせ、セルラーゼ標品を作成する。 フロロタンニンに関しては、不溶性のEHEP/フロロタンニン複合体がpH8.0以上で解離し、フロロタンニンを遊離することが判明したが、この結果は、EHEPで濃縮沈殿させたフロロタンニン複合体を摂取すると、十二指腸以降、消化液が弱塩性になるとフロロタンニンが遊離され、細胞から吸収され、機能を発現することを示唆し、EHEPは海藻中の有用なフロロタンニンのキャリアとして使える可能性が高い。植物ポリフェノールについては、各種培養細胞を用いた生理活性測定が行われているので、アラメ、カジメのフロロタンニンについても、抗肥満活性や抗炎症活性の測定や他の生理作用について検討する。新たな作用を発見するために、フロロタンニンで処理した培養細胞のトランスクリプトーム、プロテオーム解析も行い、細胞内情報伝達ネットワークに及ぼす影響についても解析する予定である。また、ワカメメカブに含まれるフロロタンニンを探索し、健康食品として有効利用するための手がかりとする。
|
Research Products
(1 results)