2017 Fiscal Year Research-status Report
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17K07955
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
齋藤 陽子 北海道大学, 農学研究院, 講師 (30520796)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 小麦品種改良 / 西豪州 / EPR / 民間投資インセンティブ |
Outline of Annual Research Achievements |
小麦育種の民間インセンティブの可能性について、西豪州のEPR制度を対象に、現地調査を実施した。豪州政府は、植物品種保護法に基づき、種子に対するロイヤリティ収入としてEPR制度を導入、種子代に上乗せするのではなく、生産物の単収に課金することでロイヤリティ収入を得る制度を導入した。西豪州の小麦は、9割以上が輸出向けであり多くが集荷先に持ち込まれること、畜産などの自家利用がほとんどない、など、生産された小麦をトレースできる。西豪州特有のこうした条件はあるがEPR制度は民間投資インセンティブを強化した点で制度革新と呼ばれ、様々な国で導入が検討されている。
本研究では、現地で民間育種会社や集荷業者に聞き取り調査を実施、作付面積、知的財産やEPRデータを収集、現在、民間投資インセンティブに寄与した要因の特定を進めている。具体的には、EPR導入前の品種(non-EPR品種)と導入後の品種(EPR品種)で、品種保護の継続日数を比べた。育成者権の維持には、毎年手数料が徴収され、育種会社の担当者によれば、EPRを保有している品種全てについて、登録継続の申請を行うか、すなわち維持費用を支払うか否かを決定している、とのことであった。よって、この権利維持の費用を考えれば、権利は20年維持できるものの、生産者に受け入れられなかった品種については、早い段階で権利を放棄するのが合理的である。よって、権利維持年数が長い品種ほど、生産者に受け入れられている、といえ、権利維持年数は、EPRによって優良品種が増えてきているのか、すなわちEPRによって品種改良の成果は改善されているのか、といった間接的な指標となり得る。
本研究では、生存分析を採用しEPR品種はnon-EPR品種に比べて権利維持年数が長く、生産者に受入れられる優良品種であり、よってEPR制度は品種改良成果にポジティブに貢献していることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画ではH29年度に北米調査を、H30年に豪州調査を計画していた。現地のカウンターパートや調査環境を考慮し、比較的調査体制の整った豪州をH29年度の訪問対象とした。北米についてはH30年度にカンザス州立大学などを訪問する予定であり、調査時期は入れ替わったが、3年間の研究計画でみれば、大きな変更はない。
H29年度に収集したデータは現在分析及び執筆を進めている段階であり、H30、H31年度と引き続き、北米やヨーロッパの事例を追加していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
H30年度はカナダを含む北米の調査を予定している。アメリカの小麦品種改良はハイブリッドを育成するとともに、知的財産権の中でも他者の利用が排除される特許を申請する品種が多い。しかしながら、自家受粉作物であるため、実際には他者の利用を排除するための監視費用が高く、民間投資インセンティブはその分阻害されてきた。西豪州のEPRと同様の制度導入も検討されるが、畜産農家の自家利用を把握できないなど、西豪州とは農業生産環境が異なることから、導入には至っていない。カナダも同様である。
そこで、カナダ、アメリカの現状を把握することで、小麦の民間インセンティブ強化の条件を明らかにし、種子法の撤廃によって民間投資を促進したい日本への導入可能性や導入条件などを導きたい。
最終年度のH31年には、オランダやイギリスの事例を調査することで、品種改良の民間インセンティブに加え、遺伝資源利用についても考察を加え、農業研究開発の経済学として、書籍などにとりまとめたいと考えている。文献収集も進展しており、現段階では予定通り進展すると思われる。
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Causes of Carryover |
H29年度は、オーストラリア及び国内での研究打ち合わせとしておもに旅費に支出したが、特にオーストラリアでは大きな支出もなく、また、現地カウンターパートの車両を一部利用するなど、計画した支出を下回ることとなった。また、収集データの入力についても、現地の協力で電子媒体で受け取るなど、想定した支出がなかった。しかし、研究自体は計画通りに進んでおり、大きな支障はない。
来年度以降は、北米に加え、オランダやイギリスも重要な調査対象として浮上しており、次年度使用額を使用することで、調査・研究を継続していく。
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