2018 Fiscal Year Research-status Report
景観秩序を活かした農村の生態的・文化的なランドスケープを育む仕組みと実践の研究
Project/Area Number |
17K08009
|
Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
大澤 啓志 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (20369135)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 農村景観 / 生きられる空間 / タチバナ / 在来種 / ヨシ原 / カヤネズミ / 農村-都市交流 |
Outline of Annual Research Achievements |
栃木県那珂川町小砂地区の集落景観の隠れた特徴を調査した。伝統的な22件の屋敷において、母屋等の住居、かつてのタバコの乾燥小屋であった納屋、石蔵、灰汁小屋、時には井戸または池が基本要素となっていた。各屋敷における持続的な居住要素に加え、母屋の背後の山林に置かれる氏神様の存在が特筆された。また土地利用配列として「持山→屋敷→畑→水田→裏山」の配置が基本であることが示された。生活と生産の結び付いたこれらの“生きられる空間”の配置が丘陵際に沿って繰り返し並ぶことが特徴であった。 静岡県西伊豆戸田地区でのタチバナの地域資源化の動きの経緯を把握した。自生北限地であることが住民に注目され、2003年よりその栽培化が進められ、栽培農家に少額のお金が回る仕組みが作られていた。2つの自生地において合計56本の成木の生育を確認したが、1ヵ所では世代更新が行われていなかった。地区内の庭先や畑等の約50か所で栽培タチバナが認められ、地域資源として特色ある景観形成との連携が課題と考えられた。 関東平野中央に在る農村域「浮野の里」(埼玉県加須市)を事例に、カヤネズミの半自然草地における営巣習性を把握した。当地区には比較的大きな個体群が維持されていることが示され、カヤツリグサ科のスゲ属、特にカサスゲを営巣に利用していることが特筆された。「浮野の里」には、その地象水文的要因(埋没谷からの湧出水)及び農村開拓の歴史的要因(田掘りを伴う水田開墾とそれでも開墾されなかった過湿地、そして近年の休耕田の存在)により湿地が比較的まとまって存在し、それら半自然草地である湿地がカヤネズミの個体群の維持に寄与しているものと推察された。 また、先の那珂川町で7年間に高校生の農村-都市交流を実践してきた。他者との対話の中でその土地のランドスケープの意味が意識化されるという、農村の教育力を発揮する「器」としての価値を明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで、①千葉県鴨川市大山千枚田(丘陵地卓越)でNPOによる棚田保全活動が当該地域の水田を特徴づけるサンショウウオ類、アカガエル類の個体群持続に寄与していること、②静岡県西伊豆戸田地区(山地卓越)で、希少種タチバナの自生分布北限地であることに着目した「小さな経済」の活動経緯と課題、③栃木県那珂川町(中山間地域)での農村集落景観の隠れた土地利用配列と住民の細やかな管理により生じる審美性、そして④埼玉県加須市「浮野の里」(平地域)での過湿地で水田に開墾することが出来なかったヨシ原でのカヤネズミの繁殖生態等について、明らかにしてきた。地形・水文等の非生物的環境、植物・動物等の生物的環境、景観、住民活動、外部来訪者のまなざし等、重層的な構造で農村ランドスケープが成立していることを、事例的に明らかにしつつある。 いずれも論文として発表しており、各立地条件での実践活動を通じた農村ランドスケープを育む仕組みという本課題に対して、概ね順調に進展していると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度である本年は、上記の加須市での住民活動(景観保全のためのヨシ原の野焼きを継続)の持続要因について意識面からまとめる(アンケート調査は実施済み)とともに、ヨシ原の成立要因やヨシ原を重要なハビタットとしているノウルシの生態について、調査を進める。さらに、当地区でのそれら生態システムと住民による景観保全活動(社会システム)の連関について考察を深める。 また、那珂川町での多様な地域景観資源を活かしたNOP活動について継続調査を行い、地域内の「美しい村」としての認識・活動資源発掘と外部からの評価との関係性について考察を深める。また、後者の外部の評価として、継続して実施している高校生の農村-都市交流から導かれた「人を介した地域ランドスケープ理解」について、実際の交流活動を通じて考察を深める。 他の立地条件として島嶼について調査地を検討するとともに、これまでの研究を総括して「農村ランドスケープの保全・育成」に必要となる視点及び活動持続要件についてとりまとめを行う。
|
Causes of Carryover |
前々年度からの未使用額がほぼそのまま未使用額として残っているので、前年度は計画通りに支出が進んでいる。今年度は調査地(静岡県西部及び東京都大島町を検討中)を増やすことで旅費支出が多くなるとともに、ヒアリング・現地視察案内等(謝金支出)も複数回行う計画である。また最終年度なので、とりまとめにアルバイト料を多く支出する予定である。
|
Research Products
(8 results)