2018 Fiscal Year Research-status Report
肉用鶏の浅胸筋肥大の特異性をモデルとしたオートファジー系タンパク質分解制御の解明
Project/Area Number |
17K08058
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
中島 一喜 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 畜産研究部門, 上級研究員 (70370583)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 肉用鶏 / 卵用鶏 / オートファジー / アトロジン-1 / 骨格筋 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、肉用鶏の浅胸筋の特異的増大をモデルに用い、オートファジー系のタンパク質分解機構を明らかにするため、肉用鶏と卵用鶏の浅胸筋におけるオートファジーに対する違いを比較した。肉用鶏は卵用鶏と比較して成長が2倍以上速く、浅胸筋重量3倍以上も大きい。これまで、この骨格筋量の違いはタンパク質代謝回転速度の違いが寄与することが明らかにされている。そこで、肉用鶏と卵用鶏の浅胸筋を用い、オートファジー系タンパク質分解制御機構を遺伝子発現レベルならびに翻訳後修飾レベルで検討した。さらに、ユビキチン-プロテアソーム系の律速酵素であるアトロジン-1の発現に対する影響についても検討した。卵用鶏(レイヤー)ならびに肉用鶏(ブロイラー)の浅胸筋におけるLC3-II/total LC3比(LC3タンパク質の翻訳後修飾)に有意な差は見られなかった。肉用鶏ならびに卵用鶏の浅胸筋におけるオートファジー関連遺伝子LC3Bの発現量は、卵用鶏に比べ、肉用鶏で高くなる傾向が見られた。また、オートファジー関連遺伝子のGABARAPL1ならびにATG12の遺伝子発現は、卵用鶏に比べ、肉用鶏で有意に高くなった。ユビキチン-プロテアソーム系の律速酵素であるアトロジン-1遺伝子発現量は、卵用鶏に比べ、肉用鶏で有意に低くなった。これらの結果から、オートファジー関連遺伝子の発現は、卵用鶏に比べ、肉用鶏で有意に高いにもかかわらず、翻訳後修飾レベルではオートファジー活性には差がないことが明らかになった。また、肉用鶏と卵用鶏の浅胸筋重量の差は、ユビキチン-プロテアソーム系のタンパク質分解が関与している可能性が高いことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
肉用鶏と卵用鶏の浅胸筋におけるオートファジーに対する違いを、ユビキチン-プロテアソーム系のアトロジン-1発現の違いと比較した。その結果、肉用鶏と卵用鶏の浅胸筋におけるオートファジー系とユビキチン-プロテアソーム系の制御は両品種間で異なること、特に、肉用鶏と卵用鶏の浅胸筋のオートファジー活性には差がなく、ユビキチン-プロテアソーム系には差がみられることを明らかにしたことは、重要な知見である。 肉用鶏と卵用鶏の浅胸筋のオートファジー系とユビキチン-プロテアソーム系の応答が異なること、特に、肉用鶏の浅胸筋において、卵用鶏に比較し、ユビキチン-プロテアソーム系のタンパク質分解活性は低いにも関わらず、オートファジー系には差がないことが明らかにしたことにより、鶏骨格筋特異的タンパク質分解制御機構が存在する可能性を見出した。 また、肉用鶏の骨格筋においてオートファジー系のタンパク質分解制御は、オートファジー関連遺伝子発現で増加するにもかかわらず、LC3タンパク質の脂質修飾で示される翻訳後修飾レベルでは差がないことを明らかにしたことにより、鶏骨格筋におけるオートファジーの制御は翻訳後修飾レベルで可能であることを示している。 これらの結果から、肉用鶏の骨格筋において、ユビキチン-プロテアソーム系とオートファジー系は異なった遺伝子発現ならびに翻訳後修飾レベルの制御機構が存在する可能性が示唆され、研究目的を概ね順調に達成していると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
鶏培養骨格筋細胞を用いて、オートファジー系タンパク質分解に対する影響と制御機構の詳細に検討する。オートファジーは、細胞質成分(多量の細胞内タンパク質やオルガネラ)をオートファゴソームが取り込み、その後、リソソームと融合し、リソソームに存在する加水分解酵素群の消化によるバルクなタンパク質分解機構である。そこで、オートファジー系タンパク質分解制御機構を明らかにするため、まず、オートファゴソームの形成の阻害剤である3-メチルアデニン、クロロキンならびにバフィロマイシンA1を培地に添加し、鶏骨格筋細胞を培養する。また、リソソーム融合の際に必須なmechanistic Target of Rapamycin (mTOR)の阻害剤を培地に添加する。オートファジー関連遺伝子の発現を調節しているフォークヘッド転写因子(FOXO)阻害剤を添加し、同様に鶏骨格筋細胞を培養する。それぞれの処理後、オートファジー関連遺伝子ならびにアトロジン-1の発現を調べる。また、LC3タンパク質の翻訳後修飾についても調べる。これらの実験から、鶏骨格筋細胞における主要なオートファジー系の制御因子の同定ならびに制御機構が明らかになり、また、アトロジン-1 遺伝子発現と比較することにより、ユビキチン-プロテアソーム系との関係も明らかにする。 今年度の研究から、鶏骨格筋におけるオートファジーに関与する制御機構(オートファゴソーム形成過程、シグナル伝達、転写因子等)を明らかにすることが可能である。また、鶏骨格筋において、オートファジー系のタンパク質分解が、遺伝子発現または翻訳後修飾のどちらにより制御されているのかが明らかになる。ユビキチン-プロテアソーム系の律速酵素であるアトロジン-1の発現と比較することにより、鶏骨格筋タンパク質分解におけるオートファジーの寄与率が明らかになる。
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Causes of Carryover |
本年度計画の動物実験ならびに分析に関して、予定よりやや安価となり、現使用額で遂行できたため、次年度の予算と合算し物品費として使用予定である。物品費として93万円、旅費として35万円、人件費・謝金として10万円、その他として10万円を使用予定である。
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