2017 Fiscal Year Research-status Report
時計遺伝子BMAL1によるエネルギー代謝を中心とした骨格筋機能の制御メカニズム
Project/Area Number |
17K08291
|
Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
榛葉 繁紀 日本大学, 薬学部, 教授 (20287668)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 体内時計 / 時計遺伝子 / 骨格筋 / エネルギー代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、体内時計システムによる骨格筋機能の調節機構を明らかにし、その知見を基にメタボリックシンドロームの時間薬物治療の分子基盤を提示することである。その目的を達するため本年度は、体内時計調節において中心的な転写因子であるBMAL1を骨格筋特異的に欠損したマウス(M-BMAL1 KOマウス)を作製し、そのエネルギー代謝に関する特徴を生化学的及び病理学的観点から解析した。通常食を用いて飼育したM-BMAL1 KOマウスの体重、摂餌量、精巣上体脂肪組織、自発的行動量及びその概日リズム、そして血液パラメーター(コレステロール、中性脂肪、遊離脂肪酸およびアディポサイトカイン類)量は、BMAL1flox/floxマウス(以下コントロールマウス)のそれらと差異を示さなかった。また骨格筋の電子顕微鏡写真を撮影し、Z帯構造ならびにミトコンドリアを中心に細胞内の微細構造における変化を観察したが、明らかな違いは認められなかった。一方、M-BMAL1 KOマウスの骨格筋重量、呼吸商及びエネルギー消費量は、コントロールマウスのそれらに比較して著しく増加しており、エネルギー代謝が活性化していることが示された。そこで高脂肪食下で飼育したM-BMAL1 KOマウスを解析した。 高脂肪食飼育下においてM-BMAL1 KOマウスは、食事依存性の体重増加、血液パラメーターの悪化及び異所性脂肪の蓄積に対して抵抗性を示した。また通常食飼育下では変化を示さなかった耐糖能及びインスリン感受性に関しても肥満に伴うスコアの悪化に対して抵抗性を示した。 以上の結果より、骨格筋においてBMAL1は、脂肪酸燃焼の制御を介してエネルギー代謝を調節していることが示された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、体内時計調節において中心的な転写因子であるBMAL1を骨格筋特異的に欠損したマウス(M-BMAL1 KOマウス)を作製し、そのエネルギー代謝に関する特徴を生化学的及び病理学的観点から解析する事を目的とした。通常食を用いて飼育した場合は、病理学的に大きな変化は観察されなかったが、生化学的及び生理学的解析から骨格筋のBMAL1がエネルギー代謝を制御していることが示唆された。またこの結果は、高脂肪食負荷時においてM-BMAL1 KOマウスが肥満に伴う代謝機能の低下に対して抵抗性を示すことからも支持された。すなわち本年度は当初の目的を達成することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は骨格筋BMAL1による脂質燃焼の制御機序を、以下の観点から明らかにする。 1.骨格筋におけるカルシウム依存性シグナル伝達の解析 骨格筋の機能発現には複数のカルシウム依存性シグナルが重要な役割を果たす。本研究では、それらの中でもエネルギー代謝調節に関与するシグナル伝達の解析を行う。① 血液中ならびに骨格筋中のカルシウム量を24時間にわたり測定する。② 骨格筋におけるカルシウムチャネルサブユニットの遺伝子発現量を24時間にわたり解析する。③ 骨格筋においてカルシウムは、筋細胞形成に必須である転写因子NFATの核移行を促す。そこでNFATの核移行を免疫染色により検出する。④ 骨格筋における代謝調節に関わるカルシウム依存性シグナル伝達において、脱リン酸酵素であるカルシニューリンならびにリン酸化酵素であるAMPキナーゼのタンパク質量ならびに活性化体量をウエスタンブロッティングにより解析する。 2.骨格筋における網羅的遺伝子発現解析と時間薬物治療への応用 ① M-BMAL1 KOマウスの骨格筋における遺伝子発現をコントロールマウスのそれとRNA-Sequencingにより比較する。②骨格筋におけるBMAL1の標的遺伝子として同定された因子のうち分泌タンパク質に関してはリコンビナントタンパク質あるいは中和抗体を、代謝酵素の場合は阻害剤を、時刻(昼と夜)を変えて肥満モデルマウスに対して投与し、血糖値をはじめとする血液パラメーターの変化を検討する。
|
Causes of Carryover |
(理由) キャンペーンの利用やメーカの変更などにより効率的に物品の購入を行うことができたため。 (使用計画) 次年度は、メカニズム解析が中心となる。そのため分子生物学的実験に用いる試薬、抗体並びにELISAキットなどが中心となる。また遺伝子改変マウスの維持管管理を引き続き行うための経費に使用する。また研究成果の発表に関する経費にも使用する。
|