2017 Fiscal Year Research-status Report
うつ病におけるミトコンドリア変性タンパク質ストレスレスポンスの関与の解明
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17K08310
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
神戸 悠輝 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 助教 (60549913)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮田 篤郎 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 教授 (60183969)
栗原 崇 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 准教授 (60282745)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | うつ病 / ミトコンドリア / ミトコンドリア変性タンパク質ストレスレスポンス |
Outline of Annual Research Achievements |
うつ病患者の3割は既存の抗うつ薬に耐性を示す難治性うつ病である事から,異なる作用点を持つ薬剤の創出は急務である.ミトコンドリア変性タンパク質ストレスレスポンス (UPRmt) はミトコンドリア内におけるタンパク質の品質管理システムであり,アルツハイマー病やパーキンソン病への関与が報告されているが,うつ病にUPRmtが関与するか否かについてこれまで検討されていなかった.申請者は,慢性拘束ストレスを受けたマウスはうつ様行動を示すとともに,その脳から回収したRNAにおいてUPRmtマーカー遺伝子の発現が有意に増加し,さらに興味深いことに,すべてのUPRmtマーカー遺伝子の発現はうつ様行動と有意に正相関することを見出し,脳におけるUPRmtはうつ病の新規要因であり新たな創薬ターゲットになる可能性が示唆された.まず,UPRmtがうつ病の要因となるか調べるために薬理学的にUPRmtを誘導した.すなわち,タンパク合成阻害系の抗菌薬は,細菌とタンパク合成システムが類似するミトコンドリアにおいてもストレスを惹起しUPRmtを誘導することが知られている.そこで,ミノサイクリン,ドキシサイクリンおよびクロラムフェニコールを293T細胞に曝露しUPRmtと小胞体ストレスレスポンス (UPRer) に関与する遺伝子の発現変動を観察すると,全ての抗菌薬はUPRmtを惹起し,特にドキシサイクリンはUPRerの変動なしにUPRmtを惹起することが明らかとなった.そこで,マウスに慢性的にドキシサイクリンを経口投与すると,ビー玉隠し試験における不安様行動においては抗不安作用を,尾懸垂試験においては抗うつ作用を濃度依存的に示したことから,予想に反してUPRmtを惹起すると抗うつ作用を示す可能性が示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究から,慢性拘束ストレスを負荷したうつ病モデルマウスの脳内において,ミトコンドリア変性タンパク質ストレスレスポンス (UPRmt) が惹起される可能性を明らかにしたが,これには以下の2つの可能性があった.すなわち,① 変性タンパク質などの未知のミトコンドリアストレス因子が脳ミトコンドリアに蓄積し,うつ病様症状の原因となる一方で,ストレス因子を排除する生体の防御機構としてUPRmtが誘導された; ② UPRmtによって,うつ病様症状が惹起された.本年度の研究成果から,ドキシサイクリンの慢性投与を行うことで,脳において薬理学的にUPRmtを誘導すると,抗不安作用および抗うつ作用が惹起されることが明らかとなった.この事実は,前述①の可能性を採択し,ドキシサイクリンの様なUPRmtを惹起する薬物は新規作用機序の抗うつ薬となる可能性が示唆された.次年度の研究を推進する上で,UPRmtを止めるのか,促進するのかという方向性は非常に重要な問題であったが,UPRmt自体は抗うつ的に作用するという知見が新たに明らかになったことは本研究における非常に大きな前進であると考えられる.この事から,(2) 概ね順調に進展していると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
UPRmtの誘導は抗うつ的に作用することが明らかとなったが,慢性拘束ストレスによってどの様なミトコンドリアストレス因子が蓄積するのかは明らかでは無い.そこで,脳単離ミトコンドリアのプロテオーム解析を行う.それぞれの呼吸鎖複合体は数十個のサブユニットタンパク質から構成されることから,個々のサブユニット発現を観察する.すなわち,単離脳ミトコンドリアのタンパク質標品を2次元電気泳動し,網羅的にプロテオーム解析を行う.一方,脳単離ミトコンドリア標品のメタボローム解析を行う.ミトコンドリアは呼吸の過程で多種の代謝物を産生する.そこで,脳ミトコンドリア標品の代謝動態を比較するためメタボローム解析を行う.以上の解析から,慢性拘束ストレスによって障害を受けるミトコンドリア分子が明らかとなる.また,ミトコンドリアタンパク質の一つである,オルニチントランスカルバミラーゼ (OTC) の変異体である⊿OTCはミトコンドリアへの変性タンパク質の蓄積を介してUPRmtを惹起することが報告されている.そこで,神経細胞にアデノ随伴ウイルスベクターを用いて⊿OTCを発現した後に,うつ様行動を観察する.このことから,ミトコンドリアに蓄積した変性タンパク質のうつ様行動への関与が明らかにすることが出来る.さらに,慢性拘束ストレスで影響をうける脳部位が明らかではない.そこで,新たに慢性ストレスを負荷したマウスがうつ様行動を示すことを確認した後に,うつ病に関連する脳部位を獲得しており,これらの脳標品を用いてUPRmt関連分子の発現を観察する.
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Causes of Carryover |
実験計画がスムーズに進行し,実験動物および試薬購入費を抑えることが出来たからと考える.次年度の使用計画として,実験動物購入費用やアデノ随伴ウイルスベクター作成費用に充当する予定である.
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Research Products
(16 results)