2017 Fiscal Year Research-status Report
神経/シュワン細胞相互作用に着目した抗がん剤誘発末梢神経障害の機序・治療法の探索
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17K08445
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
今井 哲司 京都大学, 医学研究科, 講師 (80468579)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 末梢神経障害 / 抗がん剤 / シュワン細胞 / 新規治療薬探索 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では神経/シュワン細胞の共培養実験系ならびに動物モデルを構築して、シュワン細胞に着目した抗がん剤誘発末梢神経障害のon-set 機構ならびに難治化に関わる分子機構の解明を目的として検討を行った。さらに、シュワン細胞の機能正常化による神経軸索保護/再生を基盤とした新規治療法の可能性を探ることを目的として、京都大学が保有する既承認医薬品化合物ライブラリーからシュワン細胞の分化・再髄鞘化を促す薬物をハイスループットスクリーニング(HTS)する実験系を構築する。 研究代表者は、神経/シュワン細胞の共培養実験系を構築し、これにパクリタキセルなどのタキサン系抗がん剤を処置した結果、顕著なmyelin 形成シュワン細胞の減少(脱髄)が観察された。しかしながら、神経マーカーMAP2で染色される神経細胞の形態変化および細胞数の減少は、同様の抗がん剤処置では全く確認されなかった。以上の結果より、パクリタキセルによるシュワン細胞の脱分化による脱髄は、神経への直接作用に先行して引き起こされ、これらの現象が抗がん剤誘発末梢神経障害発症の一因であることが明らかとなった。これらの研究成果については、海外の学術誌に発表した(Imai S et al, Sci Rep 2017; 7(1): 5947)。 一方、研究代表者らは髄鞘構成タンパク質のMBPプロモーター下に蛍光タンパク質Venus遺伝子をウイルスベクターで導入し、シュワン細胞の分化状態を蛍光強度を指標に評価する実験系の構築を進めている。本HTS系を利用して、京都大学医学研究支援センター・ドラッグディスカバリーセンター所有の既承認医薬品・新規化合物ライブラリーの約3,000種の薬物からシュワン細胞を分化誘導できる候補薬を複数選択する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、神経/シュワン細胞の共培養実験系ならびに動物モデルを構築して、シュワン細胞に着目した抗がん剤誘発末梢神経障害のon-set 機構ならびに難治化に関わる分子機構の解明をすることを目的としている。また、京都大学が保有する既承認医薬品化合物ライブラリーからシュワン細胞の分化・再髄鞘化を促す薬物をハイスループットスクリーニング(HTS)することも目的の一つである。 今年度の研究では、神経/シュワン細胞の共培養実験系ならびに、パクリタキセルやドセタキセルなどのタキサン系あるいはオキサリプラチンなどの白金系抗がん剤誘発末梢神経障害マウスモデルの確立に成功した。これらの実験系を用いて、白金系抗がん剤によるミトコンドリア障害を伴ったシュワン細胞の細胞死あるいはパクリタキセルによるシュワン細胞の脱分化による脱髄は、神経への直接作用に先行して引き起こされ、これらの現象が抗がん剤誘発末梢神経障害発症の一因であることを明らかにした。 さらに、シュワン細胞の分化・再髄鞘化を促す薬物をHTSする実験系として、髄鞘構成タンパク質のMBPプロモーター下に蛍光タンパク質Venus遺伝子をウイルスベクターで導入し、シュワン細胞の分化状態を蛍光強度を指標に評価する実験系の構築に成功し、先行研究をすでに開始している。 これらのことから、本研究課題の進捗状況については、当初の計画書通りにおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本HTS系を利用して、京都大学医学研究支援センター・ドラッグディスカバリーセンター所有の既承認医薬品・新規化合物ライブラリーの約3,000種の薬物からシュワン細胞を分化誘導できる候補薬を複数選択する。なお研究代表者は、約30種の国内既承認医薬品を用いた小規模スクリーニングを行い、強力なシュワン細胞分化能を有していることを既に発見している。HTSによって選定された1次候補薬が既承認医薬品ならば薬物動態、薬物相互作用などを考慮して絞り込み、神経/シュワン細胞共培養系などを用いて髄鞘形成を指標に効果を再確認し、有効濃度などから2次候補薬を選定する。さらに、抗がん剤誘発末梢神経障害モデルマウスを用いて、既存薬との比較試験を実施した上で最終候補薬を選定する。動物モデルの疼痛評価系として、現在は外的刺激に対する痛覚過敏を解析することが主流であるが、抗がん剤誘発末梢神経障害患者では自発的なしびれや痛みが主症状となる。本研究では、外的刺激に対する疼痛評価(von Frey、Hargreavesテストなど)に加え、マウス後肢に微小磁石を埋め込み、微細な動きを行動別に解析する微小行動測定システムを用い、抗がん剤誘発末梢神経障害による自発痛やしびれ様の行動を24時間計測する。また、ニューロメーターによる感覚神経の感受性変化、神経伝導速度の変化も検討する。さらに、同マウスの末梢神経標本を作製し免疫組織染色や電子顕微鏡(京都大学内の受託サービス利用)により、シュワン細胞の分化状態、脱髄/再髄鞘化や神経軸索の障害/再生を観察する。上記の全研究手法は既に確立し先行検討を開始している。
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Causes of Carryover |
実験の担当者(研究協力者)の一人が体調不良により、長期的に休学することになり、実験の実施が限られたため。ただし、残りの研究協力者が連携を取りって本課題を推進したので、進捗具合に大きな遅れは発生しなかった。
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Research Products
(4 results)