2018 Fiscal Year Research-status Report
Development of a method to induce apoptosis by HIV locked in a cell
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17K08861
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
藤田 美歌子 熊本大学, 生命科学研究部, 特任教授 (00322256)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大塚 雅巳 熊本大学, 大学院生命科学研究部(薬), 客員教授 (40126008)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | エイズ根治 / 潜伏感染細胞 / Gag / MA / イノシトールリン脂質 / アポトーシス / X線構造解析 / IP6 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在のエイズ治療における最大の目標は、HIV潜伏感染細胞の感染者体内からの除去、すなわち根治である。これまで研究代表者らは、HIVのGagタンパク質のMAドメインに強く結合する非天然型イノシトールリン脂質誘導体L-HIPPOを開発した。HIVタンパク質を発現する細胞に、キャリアを用いてL-HIPPOを導入すると、ウイルス放出が抑制され細胞はアポトーシスにより死滅する。研究代表者らはこの現象にLock-in and apoptosisという名前をつけた。このLock-in and apoptosisは、HIV潜伏感染細胞の感染者体内からの除去に繋がると考えており、臨床試験に使用できるところまで発展させることが本研究の目的である。 平成29年度には、それまでのデータを論文発表することができた(Tateishi et al., Scientific Reports, 2017)。その際に、問題点としてT細胞への導入効率が悪いことがわかった。また、MAタンパク質を大腸菌から大量に発現、精製することにも成功した。このタンパク質を用いたDSFアッセイから、MAとL-HIPPOの結合によりタンパク質が不安定化することが示唆された。 平成30年度には、精製MAを用いた複合体X線結晶解析や物理学的解析を行った。MAとL-HIPPOとの共結晶を出すことを種々の条件により試みたところ、綺麗な結晶を得ることには成功した。しかし、まだ構造を解くには至っていない。その一方で、L-HIPPOの部分構造であるイノシトール6リン酸(IP6)とMAとの構造を解くことには成功した。また、T細胞への導入効率を明らかにするために、細胞内でのL-HIPPOの定量法の確立を試みた。さらに、L-HIPPOのプロドラッグ体の合成検討を行った。まだ最終目標には到達していないが、いくつかの知見が得られ、確実に研究は進んでいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
得られた成果を以下に述べる。 (1)MAとL-HIPPOとの共結晶を出すことを、様々な条件により試みた。その結果、ある条件でかなり綺麗な結晶を得た。X線をあて、データを得ることはできた。しかしながら、解析までには至らなかった。この理由は今のところ不明である。(2)その一方で、MAとL-HIPPOの部分構造であるIP6との共結晶を得て構造を解くことには成功している。MAタンパク質内のIP6結合部位は、PIP2(細胞膜に存在し、GagのMAドメインと結合することでGagが細胞膜に移行し、ウイルスの出芽が起きることが知られる)結合部位とは少し異なった位置にあり、現在この構造を基にしてL-HIPPOがどのようにMAと結合するのか推測しようと試みている。なおMAの各種変異体とL-HIPPOとのDSFアッセイからは、MA N末端の塩基性領域がL-HIPPOとの結合に重要であることが示されている。これらの結果は、今後のL-HIPPO改変のためのデザインに繋がる。(3)細胞内でのL-HIPPOの定量法の確立を検討した。これまでに、細胞内でのIP6量を測定する実験系を立ち上げた。それは、細胞を破砕後に逆相弱アニオン交換樹脂により負電荷を帯びた化合物を集める、乾燥後にトリメチルシリルジアゾメタンによりリン酸基をメチル化後にLC/MSで測定するというものである。これと同じ方法で、L-HIPPOを定量しようとした。その結果、L-HIPPOがメチル化されるのみならず、メチル化IP6に分解することがわかった。そこで、このメチル化IP6量をL-HIPPOの量とすることにした。現在、T細胞内での導入効率を調べている。(4)L-HIPPOのプロドラッグ体の合成検討を行った。それに先立ち、IP6にブチリルオキシメチル基を導入することには成功している。そこでこれと同様のプロドラッグ化を検討しているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は変わらず、Lock-in and apoptosis法をHIV感染細胞の除去法として、臨床試験に使用できるところまで発展させることである。そのために、以下の実験を行う。 (1)MAとL-HIPPOとのX線結晶解析を成功させる。そのために、結晶化の条件検討に戻りさらに様々な溶媒を検討する。これが実現しなければ、MA-IP6に基づいたMA-L-HIPPOの複合体構造モデルをつくる。(2)(1)の結果を基に、さらにMAと強く結合するようにL-HIPPOの構造を改変する。(3)L-HIPPOおよび誘導体のプロドラッグ体の合成を完成させる。(4)T細胞に(3)で合成したプロドラッグ体を加え、Lock-in and apoptosisがどのくらいの効率でおきるか調べる。その量が十分でなければ、T細胞内でのHIVタンパク質発現量が不十分であることに起因する可能性があるため、様々な転写因子増強剤との併用を検討する。最初は細胞株を用いて検討するが、最終的には潜伏感染細胞モデルを用いて評価する。(5)(4)で改善した条件を用いて、細胞でのアポトーシス誘導機序を調べる。すなわちどのHIVタンパク質が関わるのか、また宿主内でのアポトーシス誘導経路を調べる。特に、不安定化したタンパク質が蓄積するストレスにより細胞にアポトーシスが誘導される、という仮説が正しいかどうかも調べる。(6)(5)で得られた知見も用い、さらに潜伏感染モデルでのLock-in and apoptosisの効率を改善する。十分でなければL-HIPPOプロドラッグ体誘導体の設計に戻り、合成、評価を繰り返す。最終的には臨床試験に使用できるところまで改良する。
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