2018 Fiscal Year Research-status Report
児の将来の健康に影響する出生前要因解明へのメタボローム・エピゲノム解析の新機軸
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17K10174
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
佐藤 憲子 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 准教授 (70280956)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | DOHaD / 新生児DNAメチル化個人差 / 妊婦血中small RNA / DNAメチル化個人内変動 / 胎児発育トラジェクトリー / 使用済みマススクリーニング濾紙血 |
Outline of Annual Research Achievements |
「出生前の環境は, 胎児や新生児の発生発達過程に影響を及ぼし, 生後数年から数十年経過した後の児の健康を左右する要因となる」ことが疫学研究によって示され、Developmental Origin of Health and Disease (DOHaD)という概念が生まれた。この考えは出生前の環境改善によって児の生涯の疾患リスクを低減できる可能性を示唆する。しかし出生前のどのような環境要因が問題となるのか、またどのような指標を用いれば疾患リスクを評価できるのかは明らかではない。本研究では3つの側面からこの課題にアプローチしている。第1に、自ら立ち上げた出生前コホート研究の100を超える母児ペアについて、臨床データ、妊婦の食事、生活リズムやメンタルヘルス等の調査情報及び母体血・臍帯血・臍帯・新生児マススクリーニング時の濾紙血等の生体試料を取得し、DNAメチル化やmiRNAなどのエピゲノムと様々な因子との関連解析を行っている。DNAメチル化の解析は約86万箇所のシトシンを網羅したEPICメチル化アレイおよび質量分析による定量DNAメチル化解析EpiTYPER法を用いている。miRNAについては、主に妊婦血中エキソソームmiRNAによる胎児胎盤母体のコミュニケーションに着眼して解析を行っている。第2に、日本の一般集団を対象とした使用済み新生児マススクリーニング濾紙血検体を用いたエピゲノム解析の有効性を評価している。先天性代謝異常スクリーニング検査後にも、ろ紙には血液が少量残存しているが現在使用されずに廃棄されている。そこで残存血液が2次的なゲノム・エピゲノム解析に十分な質と量を保持しているかどうかを評価した。第3に、周産期電子カルテ情報を用いて胎児発育の時系列データを後方視的に解析し、新規に胎児発育トラジェクトリーには複数のパターンが存在することを初めて見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新生児のDNAメチル化状態が、出生前の環境要因と児の遺伝型との相互作用によって変化し、その変化がその後の児の健康状態と関連する。そこで本研究では、将来の疾患リスク評価の指標となりうるDNAメチル化部位があるとするならば、そのメチル化レベルをどのように定量し、評価すればよいのか、実現性の高い方法をモデル化することを意図している。新生児のDNAメチル化状態は一般に臍帯血を用いて解析されることが多い。しかし、血液DNAメチル化レベルは、好中球、リンパ球、単球といった白血球細胞タイプの組成、性、年齢(および在胎週数)、遺伝型の影響を強く受ける。しかしこれまでEpiTYPER法などを用いた候補遺伝子に限定した解析においては、細胞組成の影響を調整したエピゲノム関連解析はほとんど行われてこなかった。そこで我々は、細胞タイプのマーカーを独自に設定し、好中球、リンパ球、単球におけるメチル化レベルを測定し、参照データセットを作成することにより、マーカーのメチル化データがあれば血液検体の細胞組成を推定できるようプロトコールを確立し、その妥当性を血算による直接カウント法で検証した。これにより、目的の部位のメチル化の個人差を細胞組成の違いによって説明できる部分とそれ以外の部分に分けて評価することができるようになった。この方法を用いて予備的ではあるが、ADHD発症と関連すると報告されている臍帯血DNAメチル化レベルが妊娠初期の母親の栄養状態と弱く関連している可能性を示唆するデータを得た。また、妊娠が進行するにつれて母親の体内環境が変化する。妊娠中期から後期にかけて代謝は異化亢進となる。一方、血中の免疫細胞構成は、まだ未解明の部分が多いが、妊娠経過に伴い変化する。妊婦末梢血の肥満関連遺伝子のDNAメチル化レベルは代謝だけでなく白血球割合の変化が大きく影響を及ぼすことを明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
第1に、出生前コホート研究においては、妊婦および新生児のエピゲノム個人差を生む環境要因の解析を続ける。候補遺伝子アプローチにおいて、解析対象のサンプルサイズを増やし、白血球の細胞組成の影響によらないDNAメチル化個人差を説明する環境要因を探索する。また、血液DNAメチル化レベルの個人内変動の多くは白血球の細胞タイプの変化の影響であることを明らかにしたが、そのことを利用して、妊娠の進行に伴う母体の免疫応答( chronological immune changes)の状態をメチロームデータから評価する方法を開発中であり、それを完遂する。さらに、胎児胎盤重量比と関連する母体血エキソソームmiRNAを予備的に見出しており、その臨床的価値を明らかにする。第2に、使用済み新生児マススクリーニング濾紙血検体を用いて、エピゲノム関連解析のモデル系として HIF3AのDNAメチル化と在胎期間別出生体重との関連を示した(論文査読中)が、生後5日目の新生児DNAメチル化と臍帯血DNAメチル化との関係も今後明らかにする。第3に、本研究では出生体重だけでなく、出生前の胎児の発育パターンに着目し、胎児発育トラジェクトリーに3つのパターンがあることを明らかにした(論文査読中)が、トラジェクトリーの違いを生む要因を胎児―胎盤の相互調節や母体の妊娠適応の中に予備的に見出しているので、今後詳細を明らかにする。これまでDOHaDであまり解析されていなかった胎生期の環境の評価法に重要な知見を与えることができると考えられる。
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Causes of Carryover |
DNAのメチル化解析やgenotypingアッセイは、候補遺伝子ごと、あるいは、アレイの単位ごと等のようにひとまとまりの検体数を揃えて行う。そのため、次年度の新しい検体とともに解析待ちの検体を合わせて解析するための費用として次年度使用額が生じた。
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