2020 Fiscal Year Research-status Report
Characterization of wall shear stress sensitive genes in bicuspid aortic valve aortopathy
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17K10763
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Research Institution | Jichi Medical University |
Principal Investigator |
川人 宏次 自治医科大学, 医学部, 教授 (90281740)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木村 直行 自治医科大学, 医学部, 教授 (20382898)
中村 匡徳 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20448046)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 大動脈二尖弁 / 壁せん断応力 / 血管内皮細胞 / 血管平滑筋細胞 / MMP |
Outline of Annual Research Achievements |
大動脈二尖弁症例の異常血流が大動脈壁に及ぼす生体反応の解明を目指し、2020年度は、首都大学東京坂元尚哉准教授研究室と共同で基盤研究となるin vitro実験を施行した。ヒト二尖弁狭窄症例の異常血流が上行大動脈に衝突する現象をシミュレーションするため、ローラーポンプにより産生されるjet噴流が血管内皮細胞に衝突するin vitroモデルを作成し、ヒト大動脈内皮細胞を使用した実験を行った。flow chamberから1.0m/秒の平均流速を与え、血管内皮細胞に対しjet噴流を15分間負荷した後に、免疫蛍光染色を実施し、jet噴流負荷後の内皮細胞における接着因子発現を計測した。ヒト重症大動脈弁狭窄症に近い環境下で、血管内皮細胞に対し衝突噴流を負荷した結果、壁せん断応力と法線方向動圧が高まる領域で細胞の剥離およびPECAM-1の発現低下が認められ、内皮細胞間接着は衝突噴流環境特有の影響を受ける可能性が示唆された(2020年5月25-27日 生体医工学会で発表)。 また、せん断応力負荷が血管内皮細胞を介し血管平滑筋細胞に及ぼす影響を解明するため、内皮細動-平滑筋細胞共培養モデルを用いて、血管壁構成成分分解酵素であるmatrix metalloproteinases(MMPs)産生に対する壁せん断応力刺激の影響を調べた。ヒト大動脈由来平滑筋細胞を含むコラーゲンゲルを遠心分離機により圧縮し,その上部に内皮細胞を播種し共培養モデルを構築した。 共培養モデルに2Paもしくは20Paの壁せん断応力を負荷した後、内皮細胞および平滑筋細胞を分離し、それぞれの細胞内のMMP-2,-9の産生量をwestern blotting法で調べた。その結果,内皮細胞のMMP-2産生および平滑筋細胞のMMP-9産生において壁せん断応力の大きさに依存した増加傾向を認めた(2020年5月25-27日 生体医工学会で発表)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
in vitro研究結果に加えて、自治医科大学の臨床研究倫理委員会の承認の元、名古屋工業大学中村匡徳教授の研究室と共同で、大動脈二尖弁症例を中心とした数値流体力学解析研究を現在実施している。大動脈二尖弁症例で、大動脈壁せん断応力を中心とする血行力学パラメーターの分布マップを作成し、大動脈壁の組織学的変化との関連性を検証している。 2020年度は、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大により、本研究に関する検体採取及び関連実験も影響を受けた。研究施設での待機的心臓手術件数を制限した結果、大動脈二尖弁症例に対する大動脈弁置換術+上行大動脈置換術実施件数も減少傾向となったが、大動脈二尖弁症例の上行大動脈組織はこれまで25症例(平均年齢63.8歳 男性12例女性13例)採取した。平均上行大動脈径:4.73+/-0.94 cm・平均上行大動脈径/下行大動脈径:1.91+/-0.78であり、下行大動脈径で補正した上行大動脈径に基づき、25例から中等度大動脈拡大群(n=6・平均上行大動脈径/下行大動脈径:1.63+/-0.05)と高度大動脈拡大群(n=6・平均上行大動脈径/下行大動脈径:2.46+/-0.31)を選定した。せん断応力の高部位と低部位の大動脈の内膜・中膜組織からRNAを抽出しており、今後、DNAマイクロアレイ法による網羅的遺伝子解析を行い、せん断応力負荷の影響を受け、大動脈二尖弁症例の大動脈拡大に関与するmolecular pathwayを同定する予定である。 また、東京都立大学坂元尚哉准教授研究室とのウシ/ヒト大動脈細胞(血管内皮細胞/血管平滑筋細胞)を使用したin vitro研究も継続して実施し、高せん断応力が上行大動脈壁の中膜・内膜細胞に及ぼす生体反応を、多角的に検証する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も、共同研究機関である東京都立大学と名古屋工業大学と共同で、大動脈二尖弁症例の画像データと大動脈検体を使用した研究を継続する。2020年度は、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大により、本研究プロジェクトも影響も受けた。具体的には、大動脈検体採取の遅延とともに、共同研究施設である東京都立大学と名古屋工業大学でも、学生教育業務や実験活動に制限が生じることとなった。 本研究プロジェクトに関する大動脈検体の採取は既に終了しており、今後RNA検体を採取し、DNAマイクロアレイ法による網羅的遺伝子解析を行う予定である。本実験は、国立成育医療研究センター研究所感染免疫アレルギー研究部松本健治部長の研究室の協力の元、せん断応力が低い上行大動脈小弯側の遺伝子発現をreferenceとして、中等度大動脈拡大群と高度大動脈拡大群で、せん断応力が高い上行大動脈大弯側の遺伝子発現異常を解析することで、大動脈二尖弁症例の大動脈拡大に関与するmolecular pathwayを同定することを目指している。これまでも大動脈二尖弁症例の大動脈組織を利用した網羅的遺伝子発現解析研究は報告されているが、疾患の進行度(上行大動脈拡大の程度)を考慮して行われた研究はなく、本研究の新規性は高い。同定されたkey moleculeが大動脈組織に及ぼす影響は、当グループの血管内皮細動-血管平滑筋細動の共培養モデルを使用して評価する予定であり、将来的には、二尖弁症例の大動脈拡大の予測因子となる新規バイオマーカーの開発も視野に入れている。 また、今後も、大動脈組織細胞を使用するin vitro実験(大動脈内壁への衝突流を再現する流れ負荷回路)を引き続き行い、上記遺伝子発現解析研究との関連性を検証する予定である。
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Causes of Carryover |
今回、研究期間延長に伴い、2021年度への次年度使用額が発生した。次年度使用額が発生した主な理由としては、本研究は、患者検体が一定数ないと実施できない遺伝子解析研究が研究の主体であることが挙げられる。2020年度は、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大により、研究機関での予定心臓手術の実施制限を行った結果、大動脈二尖弁症例に対する大動脈弁置換術+上行大動脈置換術実施件数も減少傾向となった。 大動脈検体採取の遅延だけでなく、当該研究施設および連携研究機関でも、COVID-19感染拡大により、特に緊急事態宣言中に実験の実施制限が行われた。その結果として、予備実験実施も影響を受け、特にRNA抽出実験に遅滞を生じることとなった。 DNAマイクロアレイ実験は、Agilent社Human Sure Print G3 human GE マイクロアレイ8x60Kを使用し、Marogen Japan社で今後実施予定である。Agilent社製マイクロアレイは購入済である。繰り越し金を含めた2021年度の使用額は約120万円である。DNAマイクロアレイの受託解析費用35万円、遺伝子発現解析経費20万円、in vitro実験に関連する消耗品の購入に50万円、学会発表・研究会議出席・英文校正費に15万円程度の支出を予定している。
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