2021 Fiscal Year Research-status Report
耳鳴モデル動物の皮質可視化による聴覚野の皮質過剰補正の検証
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17K11336
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
細川 浩 琉球大学, 医学部, 非常勤講師 (80181501)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 聴覚領 / 光学測定 / 周波数バンド / FM音 / サリチル酸 / モルモット |
Outline of Annual Research Achievements |
サリチル酸を人や動物に過剰投与すると急性耳鳴を生じることが知られている。サリチル酸過剰付加による影響は聴覚系の各神経核で異なることが報告された。サリチル酸過剰投与の影響は、末梢の蝸牛電位及び蝸牛神経核では周波数に非依存で一律に応答が減少した。下丘では低音域や中程度でほぼ無変化で高音域の減少が観察された。皮質では高周波を除き、低音域や中音域の応答が大きく増大することが報告された。 前年度と同様に、蛍光色素を用いた光学的測定法により音圧を45, 55, 65, 75 dBSPL、周波数を0.5, 1, 2, 4, 8, 16kHzの24種の純音刺激の時空間パターンを測定し、純音の時空間パターンにより周波数バンド活動領域を推定し、各周波数バンド領域の平均バンド応答を求めた。 上行FM音および下行FM音(変調速度1000, 500, 250 Hz/s, 音圧55dBSPL)を用いて、サリチル酸を付加後の平均バンド応答を解析した。上行FM刺激応答は、サリチル酸付加後0.5時間で、どの変調速度でも平均バンド応答は同期した一峰性応答を示し、そのピーク潜時は、変調速度に依存しなかった。下行FM音の場合は、16kバンド応答が減少し、低い変調速度刺激応答で遅延が顕著であった。 同じ実験を左右で音応答閾値が異なる難聴動物で平均バンド応答解析を行った。上行FM音の場合、各周波数バンド応答の潜時とピーク時間がほぼ同じで、低い変調速度刺激応答ではピークの時間幅が増加した。下行FM音の場合は、速い変調速度では一逢性の応答を示し、16kバンド応答の潜時が最も早く8k以下の周波数バンド応答が続いた。変調速度の遅くなると低い周波数バンドの応答が強くなり二逢性になった。サリチル酸付加で観察される遅い変調速度の応答遅延は、第一ピーク(高周波応答のピーク)が消失し、第二ピークが残ったものと推察される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
前々年度の耳鳴動物モデルの時空間的音圧-周波数特性マップを作成し、従来の報告と同様に、高周波の閾値が上昇し、中間部の閾値には変化がないことを報告した。さらに耳鳴動物モデルでの周波数バンドを横断するFM音の左右特性差に対する影響を検討した。刺激音圧が高い条件では、サリチル酸によりFM変調速度特性の左右差がなくなることを報告した。刺激音圧が低い条件では、下行FM刺激応答パターンが、サリチル酸付加により顕著に変化をすることを報告した。 前年度は、各周波数バンドを同定しバンド応答としてこのサリチル酸付加の影響を解析し、サリチル酸付加による低音部と高音部の差を明らかにした。しかし、コロナの影響で、動物の納入元が異なり、両耳とも閾値の低い正常な動物が入手困難になった。そのためサリチル酸付加実験による閾値上昇で起こる現象の原因を追求するため、左右で閾値が異なる動物の平均バンド応答解析を行った。閾値が上昇した動物では、遅い変調速度での遅延が観察された。また、上行FMと下行FMの平均バンド応答の差も明らかにした。動物商の飼育環境も改善され、今後耳の良好な動物が入荷する予定である。また、実験室の改造があり、実験装置の調整や点検に時間がかかり、十分に実験を使うことができなかった。一昨年購入した装置を今の測定計に組み込み、多電極による測定を加えてサリチル酸による耳鳴りの現象を解析してたい。 今までの結果から、まず蝸牛での閾値の上昇により、聴覚皮質の各周波数バンドでの補正の強さが異なり、中音域>低音域>高音域の順になっていると考えらる。補正は、バンド内回路で形成される推察されるので、これを解明するにはバンド内の深さ方向のサリチル酸付加による影響を測定する必要がある。各音域でのサリチル酸付加の影響を多電極法で測定したい。
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Strategy for Future Research Activity |
前々年度の耳鳴動物で聴覚皮質の時空間的音圧-周波数特性マップを作成した結果、聴覚皮質でも高音域と低音域の周波数バンドの閾値が高くなり、耳鳴りの周波数である中音域は、サリチル酸で障害されないことがわかった。聴覚皮質の補正が一律ならば、中音域で過剰な補正回路が働いている可能性が示唆される。周波数バンド内の補正回路は、表層と深層の活動の特性に反映されるものと推察される。サリチル酸付加後の高音、中音、低音バンドでの皮質内の神経回路特性変化を明らかにするため、多電極法により、周波数バンド内の表層と深層の耳鳴発生過程に伴う活動変化を記録する。 多電極による耳鳴モデル動物の周波数バンド特性の測定:耳鳴周波数とその周辺の周波数バンドに多電極を挿入し、耳鳴動物の表層での活動と深層での活動変化を測定し、応答の相関係数の変化を調べる。 多電極による耳鳴モデル動物のFM特性の測定:FM開始、中間、終止の周波数バンドに多電極を挿入し、耳鳴モデル動物の表層と深層でのFM音に対する活動変化を測定する。 以上により耳鳴の皮質過剰補正説を検証し、サリチル酸による耳鳴モデル動物の聴覚皮質過剰補正の周波数バンドでの差異を検証する。
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Causes of Carryover |
実験室の改造があり、実験装置の調整や点検に時間がかかり、十分に実験を使うことができなかった。また、コロナの影響で、動物の納入元が異なり、両耳とも閾値の低い正常な動物が入手困難になった。そのため実験回数が減り次年度に予算が余ってしまった。
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Research Products
(1 results)