2017 Fiscal Year Research-status Report
ジェンダーに着目した原子力災害被災地の復興プロセス-食の安全と農の再生の視点から
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17K12610
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
岩崎 由美子 福島大学, 行政政策学類, 教授 (80302313)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 東日本大震災 / 福島第一原子力発電所事故 / 女性農業者 / 食の安全 / 女性の参画 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、福島県における原発事故被災地での「食と農」に関わる復興活動の展開についてジェンダーの視点から検討する。原発事故後大きな課題となっている福島農業の再生と食の安全の確保とを一体的にとらえ、復興計画や政策決定プロセスへの女性の参画、避難女性農業者により新たに形成された組織による営農・加工事業の再開、消費者と連携した土壌検査や食の安全に関する共同学習、交流活動の実施など、女性農業者が主体となった復興活動の経緯と特徴、課題を明らかにすることを目的としている。とくに近年の避難指示解除と帰還が本格化する段階で生じる新たな問題を念頭に置きながら、原発事故被災地での女性の参画による食と農の復興活動の展開可能性と支援機関の役割について中長期的な視点から考察することとした。平成29年度は、まず、東日本大震災・福島第一原発事故が東北地方および福島県の農業・農村に及ぼした影響と復旧・復興をめぐる課題・問題点について、農業経済学、農村計画学、農村社会学、ジェンダー論、ボランティア論等の文献・資料の収集と整理分析を行い、近年の動向を把握した。また、福島県農業担い手課の協力を得て、避難地域の女性農業者の営農・地域活動に関するデータ収集を行い、特徴的な事例について聞き取り調査を実施した。本研究の主要な目的の一つである避難指示解除後に生じている新たな課題の把握に関しては、平成29年3月に一部を除き避難指示解除がなされた浪江町を訪問し、住民の帰還の現状、避難先での農地取得状況と営農活動再開の現状と課題について役場担当者および女性農業者に対して聞き取り調査を行ったほか、先行して避難指示が解除された福島県葛尾村、広野町においても、それぞれの役場担当者および女性農業者グループに対して聞き取り調査を実施し、女性農業者が中心となった復興活動の現状と課題について把握することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の主たる目標であった、テーマに関連する文献・資料の収集分析、および現地での聞き取り調査もほぼ予定通り実施することができた。今後、聞き取り調査の実施ができない等の事態が起きた場合は、県庁農業担い手課や市町村担当者の支援を得て、地域での取り組みに関する文書データを収集するほか、予定していた地域以外での取り組み事例を収集して現地調査を実施する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の2年目となる平成30年度は、事例調査候補としておおむね10件程度の事例を選択し、現地実態調査を継続的に実施する。とくに被災の程度と内容、復旧・復興の取り組みに焦点をあて、自家の農業経営、顧客との関係についての震災前後の変化、震災後新たに形成された支援者等のネットワークの役割、今後の経営の見通しとそのために必要な支援等について、聞き取り調査を実施する。インフォーマントがグループの場合は、代表者ばかりでなく、若年層やIターン者のメンバーができるだけ多く含まれるように配慮し、各メンバーのライフヒストリー、農業観、労働観、震災前後の変化、今後の活動への志向性等について聞き取りを行うことで、経営体と個人との関係、組織が抱える課題、今後の経営展開についても検討を行う。また、避難指示区域から県外に移転して経営を再開した事例についても聞き取り調査を行うほか、それぞれの事例において女性農業者と連携して復興活動に従事している消費者グループや支援機関(農業改良普及センター、自治体、JA等)に対する聞き取り調査も実施し、食と農の再生のための条件整備について検討する。以上の取り組みにより、福島県被災地で食と農の復興活動に関わる女性の意識と今後の支援のあり方を明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
平成29年度中に県外避難者への現地調査を予定していたが、先方の都合により次年度に延期することにしたためである。未使用額は次年度の出張旅費に充てる予定である。
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