2017 Fiscal Year Research-status Report
中世高野山一心院における文芸生成に関する総合的研究
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17K13388
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
大坪 亮介 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 都市文化研究センター研究員 (10713117)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 日本文学 / 中世文学 / 太平記 / 高野山 / 一心院 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、当初の研究計画に基づき、天正本『太平記』に焦点を置いた研究を遂行した。すなわち、天正本巻二「俊基朝臣誅戮事」には、後醍醐の臣日野俊基が処刑された後、北の方の出家と俊基に仕えた侍が一心院に遁世したことを語る独自箇所が存在する。その箇所を検討した結果、当該増補が、単なる悲劇的場面の増補にとどまらず、当時の一心院の宗教的環境を踏まえていることを指摘した。 加えて、同巻「主上御出奔師賢天子号事」では、東大寺別当・醍醐寺座主を務め、真言僧としても活躍した聖尋の事跡が増補されている。聖尋に関する増補は、先の高野山一心院の増補と同様、『太平記』の物語展開上さして重要な役割を果たさない。しかし、この箇所にも分析を加えた結果、天正本は聖尋の事跡をかなり正確に付加しており、天正本の聖尋に対する関心が浮き彫りとなった。 同様の増補傾向は、巻二だけでなく巻三十八のいわゆる「北野通夜物語」にも見られる。天正本およびその影響を受けたテキストでは、物語の聞き手となり、最後に平和への期待を抱く頼意という僧が登場する。「北野通夜物語」の頼意像と頼意に関する歴史史料との比較を行ったところ、こうした頼意の造型もまた、頼意の実像に即したものであることが判明した。 さらに、こうした一心院・聖尋・頼意に関する増補には、単に真言に関する増補というだけにとどまらず、後醍醐天皇周辺の真言僧・真言寺院という共通点を持っていることを指摘した。 また、当初の研究計画に基づく以上の成果に加えて、天正本の独自増補を検討していく中で以下の成果も得ることができた。それは、天正本巻四「呉越戦事」が諸本に比べて姑蘇城・姑蘇台の記述を増補し、かつ呉王夫差と西施との歓楽に結びつけて語る傾向を持つということである。その背景としては、当時禅林で享受された文献との関係が想定される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、当初の計画通り天正本『太平記』における真言関係の独自増補記事について検討を加え、それらの背後にある共通点を指摘、天正本増補の特質を指摘することができた。その成果は、2017年12月に学術論文とした刊行された(「天正本『太平記』の増補―真言関係記事を例に―」『軍記物語の窓』第五集)。 また、当初の計画にはなかったが、天正本巻四の増補と主として禅林で享受された文献との関係を指摘し、該本の成立について別の角度からの検討が行えたことは大きな収穫であった。こちらの成果も学術論文として刊行された(「天正本『太平記』巻四「呉越戦事」の増補―姑蘇城・姑蘇台と西施の記述を端緒として―」『文学史研究』第58号)。 ただし、こうした成果が得られた一方で、当初の計画で注力する予定であった高野山大学図書館での資料調査は手薄となってしまった。平成30年度はこの不足を補うべく、高野山大学での調査回数を増やし、当初の計画でもあった真言僧頼円の事跡および文学との関係を探っていくことにしたい。 こうした課題は残ったものの、上記の成果よりすれば、本研究はおおむね順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のように、当初の計画がおおむね順調に進展していることを踏まえ、平成30年度も研究計画に基づいた研究を進めていく。平成30年度前半は引き続き天正本『太平記』に焦点を置いた研究を遂行していく。すなわち、天正本が南朝を正統とする独自の歴史認識を見せる点に注目し、それと平成29年度の研究成果との関連を探っていく予定である。 さらに平成30年度後半では、一心院と関連が深いと考えられる僧頼円の事績を聖教奥書等の史料により具体的に跡づけていきたい。そのためには高野山大学図書館等での資料調査が重要となってくるが、平成29年度は上記のように高野山大学図書館での調査が手薄となってしまった。そのため、平成30年度はその分を補うべく、高野山大学図書館での調査回数を増やすことにしたい。
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Causes of Carryover |
当初予定していた高野山大学図書館での資料調査が手薄となってしまったため。次年度は次年度使用額を利用して調査回数を増やしたい。
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Research Products
(2 results)