2018 Fiscal Year Research-status Report
「筑豊文庫資料」を用いた日本炭鉱労働史の民衆史的検討
Project/Area Number |
17K13538
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
佐川 享平 早稲田大学, 大学史資料センター, 助教 (30756375)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 日本史 / 炭鉱労働 / 上野英信 / 筑豊文庫 |
Outline of Annual Research Achievements |
【研究目的】 本研究は、日本炭鉱労働史の民衆史的検討を目的とする。より具体的には、記録作家である上野英信が残した「筑豊文庫資料」の調査・整理・分析を通じて、戦前から戦後に至る時期の炭鉱(労働)史を、民衆史的・社会史的視座から把握すべく構想されたものである。 【研究実施計画】 本研究では、(1)直方市が所蔵する「筑豊文庫資料」の調査・整理作業、ならびに、(1)の成果に基づく、(2)日本炭鉱労働史の民衆史的視座からの再構成、(3)資料論的アプローチに基づく上野英信の再評価、という3つの課題を設定し、課題(1)・(2)を〈基幹的研究〉として、課題(3)を〈発展的研究〉に位置づけている。本年度は、着手の遅れていた〈基幹的研究〉の課題(1)の推進に注力するとともに、その成果を基に課題(2)にも着手した。 【研究成果】 課題(1)、すなわち「筑豊文庫資料」の調査・整理作業では、分量にしてコンテナ(容量50リットル)約90箱、件数にして約4200件の資料について、仮整理を行った。これは、資料全体の2/3程度の分量に相当する。課題(2)では、膨大な資料を網羅的に分析することは困難であるため、優先的に分析の俎上に載せるべき資料の選定・抽出に努め、特に注目すべき資料として、複数の企業・事業所(炭鉱)の経営資料、各地の文学サークルが出版した詩集・文集等が、比較的まとまった分量で収められていることを確認した。加えて、課題(2)・課題(3)の前提作業ともなる、関係者への継続的な聞き取りの結果、上野英信の旧蔵資料の一部が、本研究計画が直接の調査対象としている直方市所蔵のもの以外に、親交のあった複数の関係者個人の手元に所在している可能性が明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本計画の基盤となる課題(1)について、直方市がクリーニング・撮影・データ化を行った資料の画像データを用いて整理作業を進められることになったため、勤務地での整理作業が可能となった(もっとも、冊子資料の場合は表紙のみの撮影となるなど、全資料が隈なく撮影されているわけではなく、引き続き、現地で資料の現物を確認しつつ作業を進める必要はある)。これによって、計画全体を比較的スムーズに進展させることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる次年度は、引き続き〈基幹的研究〉に取り組み、課題(1)では、年度前半には仮整理作業を終え、年度内に資料目録を完成させることを目指す。課題(2)については、課題(1)の進展によって追加される整理済資料の存在を考慮しつつ、優先的に検討すべき資料を選択して、その分析を進めるものとする。 また、本年度は、〈発展的研究〉と位置付けた課題(3)にも着手することとなるが、その際、「研究実績の概要」で記したとおり、直方市以外に所在する可能性がある上野英信旧蔵資料について、可能な限り追跡調査を行い、本来、「筑豊文庫」に収められていた資料の全体像把握に努めるものとする。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が発生した主たる要因は、計画初年度(29年度)において、研究補助者の雇用を断念したことによるものである。「現在までの進捗状況」で示したとおり、本年度は、資料整理作業が、提供された資料の画像データを使用する方法に変更されたこともあり、研究計画の進捗の遅れは挽回したものの、なお、次年度使用額が生じることになった。 一方、「研究実績の概要」と「今後の研究の推進方策」で記したように、本年度の研究を通じて、上野英信旧蔵資料の一部を、直方市以外の個人が所蔵している可能性が新たに明らかとなった。上野英信旧蔵資料の全体像を把握するためには、その追跡調査が不可欠である。 そこで、次年度の使用計画については、出張旅費として、次年度使用額の大半を組み込んだ450千円を見込むものとする。また、上記追跡調査に関連して必要となる、関連・周辺情報を確認するための文献・資料等(例えば、上野英信旧蔵資料の一部を所蔵する個人の著作)を購入する物品費として69千円(次年度使用額の一部を組み込み)を見込み、加えて、人件費・謝金として504千円(当初の予定通り)を見込むものとする。
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