2017 Fiscal Year Research-status Report
家族・親族関係からみた沖縄系移民の成立に関する歴史地理学研究
Project/Area Number |
17K13581
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
花木 宏直 琉球大学, 教育学部, 講師 (80712041)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 移民斡旋 / 地元有力者 / 米作 / 階層分化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,①移民送出のキーパーソンに関する沖縄県内外での調査,②移民と家族・親族に関わる沖縄県内での民俗調査,③移住先・海外の親族成員と送出地域・送出世帯における移民の位置づけに関する調査の,3つの課題を設定した。このうち,平成29年度は,課題①を中心に取り組むことを目的とした。 そこで,課題①については外交史料館での調査を行い,沖縄本島での移民送出の萌芽期に移民斡旋に関わった熊本県鏡町の資産家の特性を検討した。彼らは仙台移民合資会社に所属しており,仙台移民は宮城県の大地主や地元有力者が明治前期にアメリカ合衆国への留学や第1回官約移民を経験し,そこから海外移民を推奨して地域振興目的で移民会社を設立したこと,金銭トラブル等で経営は順調とはいえず,経営拡大の中で後発の移民送出地域であった鹿児島県や沖縄県での移民斡旋へ展開したこと等が判明した。宮城県での現地調査も行い,仙台移民関係者の出身地も熊本県鏡町と同じく米作が盛んで,近代には階層分化が進展していた様子も確認された。あわせて,これらの地域を位置づけるため,府県統計書を用いた詳細な送出地域の検討も行った。 一方,課題②や課題③についても準備を着手した。沖縄県立公文書館や沖縄県立図書館等での資料調査を行い,県人会ではなく地区単位での海外の同郷者集団に関する近代や昭和中期以前の活動記録や,字誌の悉皆調査により寄付や海外の事象の導入など詳細な送出地域と移住先との関わりに関する内容を収集した。また,八重瀬町史移民編の編纂事業と関わり,具志堅門中の成員ではないが,第二次世界大戦後にボリビアからアルゼンチンへ転住し現在は沖縄県へ帰郷した移民への聞き取り調査を行い,家族成員の動向の把握や,移住や帰郷と資産継承との関わりについて検討した。あわせて,在アルゼンチン沖縄県人連合会とロサリオ日本人会を現地訪問し,次年度以降の調査準備を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
課題①については,予定通り外交史料館と関連する地域での現地調査を行うことができ,熊本県鏡町出身者が沖縄本島で移民斡旋に従事した背景についておおよそ実証できたといえる。しかし,調査結果について,階層分化の進んだ地域に在住する大地主や地元有力者が地域振興目的で移民斡旋に関わったことや,利益追求主義に陥り金銭トラブルを発生したことや後発送出地域へ移民斡旋を展開すること等,既往研究の結論と大きな相違がなく,十分な新知見が得られたとはいいがたい。むしろ,これらの地域を位置づけるため副次的な研究として行ったものではあるが,府県統計書を用いた詳細な送出地域の分布や特性の検討の方が,初期送出地域と近代を通じた移民多出地域とのずれや東日本の局地的な送出地域の存在をはじめ新知見を得られた。 また,課題②や課題③の準備にも着手したが,調査対象について,当初は八重瀬町の具志堅門中の成員が対象となる可能性が高いと想定して研究計画を立てていた。また,海外調査につついても,彼らの主な移住先であったブラジルを想定していた。一方,準備を進める中で,当初の想定とは異なり,アルゼンチン等への移民関係者への調査が充実してきた。しかし,具志堅門中に対象を限定しなくとも,沖縄系移民であれば誰でも「地割制廃止→私有財産成立→長男・本家重視の形成→非後継者の出移民」という本研究の仮説の検討の対象になりえ,研究目的の達成には今後も支障ないと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
まず,平成29年度の課題②や課題③の準備着手を踏まえ,調査対象とする移民の再設定を進める必要がある。その際,既存の八重瀬町史移民編の編纂事業のつてだけでなく,別の自治体での移民編編纂事業の関係者とのつてがあり,これらの方々との情報交換を通じて早期に調査対象とする親族集団や移民の選定を進める。また,海外在住の親族成員への調査について,当初計画ではハワイやブラジル,ペルーをはじめ世界各地へ拡散する成員を訪問し,彼らの相互関係についての悉皆調査を目標としていた。もちろん,その実現可能性も想定し準備を進めるが,一方で沖縄本島の特定の地区出身者の集住地域をみいだし,送出地域と集住地域という2つの地域間の関係や親族関係の詳細な検討を重点的に行うという実現可能性の高い方法も想定している。いずれにせよ,「地割制廃止→私有財産成立→長男・本家重視の形成→非後継者の出移民」という本研究の仮説の検討という目的を達成するため,調査対象に選定した親族集団や移民の状況に応じて柔軟に現地調査を進める。
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Causes of Carryover |
アルゼンチンや外交史料館,宮城県での調査旅費について,精算払いで申請したところ,当初想定していた金額より,結果として支払額がわずかに下回っていた。残額については,平成30年度の旅費等に補填したい。
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Research Products
(1 results)