2019 Fiscal Year Research-status Report
ニューカマー第二世代のエスニシティとジェンダーに関する基礎的研究
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17K14024
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
三浦 綾希子 中京大学, 国際教養学部, 准教授 (90720615)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | エスニシティ / ジェンダー / エスニックネットワーク / エスニックアイデンティティ |
Outline of Annual Research Achievements |
ニューカマー第二世代が抱える諸課題をジェンダーの視点から分析するという本研究の目的に照らして、2019年度は下記の研究を行った。 まず、昨年度日本社会学会で報告を行ったフィリピン系母娘の性の管理をめぐる交渉についてさらに分析を深め、論文として移民政策学会に投稿した。第二世代の女性たちは男性よりも親から行動を厳しく管理されがちであることが海外の先行研究では明らかにされていたが、日本においてこの点に着目した研究は管見の限り見当たらない。本研究ではフィリピン人の母親たちが第二世代の娘の性を厳しく管理すること、その背景には日本社会のフィリピン人女性に対するステレオタイプやエスニックコミュニティの論理があることを指摘した。 さらに、第二世代のみならず、第一世代が抱えるジェンダー葛藤を明らかにすべく、妻によって呼び寄せられたフィリピン人男性に着目し、かれらに対するインタビュー調査を行い、結果を日本社会学会で報告した。フィリピン系の場合、女性のほうが日本での仕事があるため、妻が先に移住し、その後夫をフィリピンから呼び寄せるというパターンも少なくない。また、妻のほうが稼得者となり、家計を支えている場合も多い。こうした状況下で夫は男性としての地位が低められることになるが、エスニック教会に積極的に関与したりするなど、男性としての地位の回復の戦略をそれぞれにとっていることを明らかにした。 また、研究対象をタイ系にも広げ、シングルマザー家庭で育ったタイ系第二世代のエスニックアイデンティティについて教育社会学会で報告した。調査から母親たちは緊密なエスニックネットワークを利用しながら文化継承を行っていることが明らかとなった。一方、第二世代たちはある程度タイ文化を継承しているにもかかわらず、来日したばかりの1.5世との比較によってタイ系としてのエスニックアイデンティティを弱める傾向にあることも明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ジェンダーの視点からニューカマー第二世代が抱える諸課題を分析するという本研究の課題を明らかにすべく、3つの研究課題を設定している。 そのうち、1)ジェンダーによる親の教育意識・教育戦略の違いの解明については、フィリピン系母娘を対象に性の管理という点から分析し、論文として発表している。母親たちは娘に対してより干渉する傾向にあることを明らかにした上で、その背景要因と娘たちの対応の仕方についても明らかにしている。 2)第二世代の学業達成とエスニック・アイデンティティ形成過程におけるジェンダーの影響の解明については、フィリピン系とタイ系の第二世代へのインタビュー調査を既に実施しており、タイ系に関してはその分析結果を学会で報告している。タイ系はフィリピン系と同じく第一世代に女性が多いことが特徴であるが、これまであまり研究の対象とされてこなかった。タイ系へのインタビュー調査が可能となったことで、エスニシティ間の比較考察も可能となった。さらに研究を進めるうちに第二世代だけでなく、第一世代が抱えるジェンダー葛藤についての分析も必要だと判断し、インタビュー調査の実施、ならびにその分析結果の報告を行っている。また、第二世代の学業達成におけるジェンダーの影響については、大学に進学した若者たちへのインタビュー調査を実施した。 3)ジェンダーとエスニシティに関する日本のニューカマー第二世代独自の課題把握については、イタリアで実施した調査との比較から、日本特有の課題が浮かび上がってはきている。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、海外調査がなかなか難しくなっており、研究計画を変更しなければならない状況にある。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は最終年度であるため、主にこれまでの調査から得られたデータを用い、分析と研究成果の発表を行う。 まず、2019年度に日本社会学会と教育社会学会で報告した内容について分析をさらに深め、論文として発表する。 さらに、高等教育で学ぶ第二世代を対象として行ったインタビュー調査をもとにかれらの経験にジェンダーがどのように関わっているのか分析を行い、教育社会学会にて報告する。必要に応じて、高等教育進学層に対するインタビュー調査を追加する。 国際比較を行うため、海外調査も予定していたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、海外調査は断念せざるを得ない。その代わり、OECDの統計データや文献などを用いて、ジェンダーによって第二世代の学業達成や社会統合の有り様に違いが現れるのか検討し、日本の事例との比較考察を行うための土壌を用意したい。
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Causes of Carryover |
対象者の多くが日本語話者だったため、通訳代として計上していた人件費・謝金が不要になった部分がある。残額は反訳代に用いる。 また、新型コロナウイルス感染拡大によって海外調査が行えなくなったため、残額が生じている。残額分は書籍の購入に充てたい。
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Research Products
(3 results)