2017 Fiscal Year Research-status Report
ブラックホール及び中性子星降着円盤の活動性と起源の解明
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17K14260
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Research Institution | National Astronomical Observatory of Japan |
Principal Investigator |
高橋 博之 国立天文台, 天文シミュレーションプロジェクト, 特任助教 (80613405)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ブラックホール / 中性子星 / 降着円盤 / 一般相対論的輻射磁気流体シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
非常に明るく、コンパクトなX線源である超高光度X線源は、エディントン降着率を超えた超臨界降着によって重力エネルギーを解放し、その活動性を維持している可能性がある。このような大量のガス降着が可能なのは中心天体がブラックホールであるためと考えられてきた。しかし近年になって幾つか超高光度X線源は、中性子星への超臨界降着によって明るく輝いていることが観測から明らかになってきた。しかしブラックホールと異なり、星表面を持つ中性子星においてもなぜ超臨界降着が可能であるのかは理論的にはわかっていなかった。 そこで本年度は中性子星への超臨界降着の一般相対論的輻射磁気流体シミュレーションを実行し、中性子星への超臨界降着が可能となるその物理機構を探った。この目的のために、まず第一歩として中性子星の持つ磁場は弱く、その影響が無視できる状況を想定した。その結果、中性子星近傍に大気が形成されることがわかった。大気の内部では輻射エネルギーは非常に高いが、光学的に厚いために輻射力は弱い。その結果、輻射による力はガス降着を阻害しないことがわかった。 次に比較的強磁場(=100億Gauss)を伴う中性子星へのガス降着シミュレーションを実行し、強磁場を持つ場合においても超臨界降着が可能であることを明らかにした。ただし強磁場を伴う場合、ガスは円盤形状ではなく中性子星磁場に沿ってガスが降着する柱形状を持つ。この降着柱内部においても弱磁場中性子星の場合と同様の物理機構が働くために超臨界降着が可能となることがわかった。以上よりブラックホールと異なり星表面を持つ中性子星においてもその磁場強度によらず、超臨界降着が可能であることを明らかにした。この結果は超臨界降着によって一部の中性子星は明るく輝いているという観測結果を支持する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
観測される中性子星への超臨界降着が何故可能なのかという謎は本年度までの研究により、弱磁場を持つ中性子星と比較的強い磁場(100億Gauss)を持つ中性子星の場合どちらにおいても解明された。すなわち、中性子星表面に光学的に厚い大気が形成されることにより輻射力は実効的に弱められるため、超臨界降着が可能となることがわかった。このような中性子星への超臨界降着の一般相対論的輻射磁気流体シミュレーションはこれまでに成功した例はなく、世界で初めての研究成果である。 一般相対論的輻射磁気流体シミュレーションコードはすでに完成していたとはいえ、中性子星への超臨界降着が可能な物理的理由を初年度から示すことが出来たのは大きな成果である。この他にも超臨界降着円盤で形成される噴出流が遠方において粒状に分裂するため、超高光度X線源で観測されるX線長期時間変動を説明出来る可能性があることを示した。また、中心天体近傍においては円盤内における乱流を起因とする密度粗密が現れるため、そこからの放射によってX線光度が時間変動を示すことがわかった。これはX線連星で観測されるX線短期時間変動に対応すると考えられる。さらに、より大きなBondiスケールにおいて降着円盤へガスが供給される際に、円盤からの放射はガス降着を阻害せず、超臨界降着のために必要となる十分なガス量を円盤に供給出来ることを示した。 これらの結果よりブラックホール、中性子星どちらにおいても超臨界降着が可能であり、さらにどちらの場合も多様な活動性を示すことを明らかにした。 以上のことより、本研究はおおむね順調に進展していると評価出来る。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により、中性子星への超臨界降着が可能であることを示した。本研究の結果は観測される超高光度X線源の一部は中性子星起源である可能性があることを示している。今後の研究は超高光度X線源として観測されているそれぞれの天体が、ブラックホール起源であるか、中性子星起源であるかを判別する方法を得ることを目的とする。 そのために1つ目の研究テーマとして、モンテカルロ法に基づく輻射輸送計算を行い、観測で期待されるX線スペクトルを得ることである。一般相対論的輻射磁気流体シミュレーションでは光度を得ることはできるが、スペクトル情報は得られない。そこでシミュレーションで得られたデータを元にポストプロセスでモンテカルロ計算を行うことにより、中性子星起源とブラックホール起源の場合それぞれにおいてスペクトルにどのような違いをもたらすかを明らかにする。 この研究だけでは十分ではない。上でも述べた通り、これまで用いていた一般相対論的輻射磁気流体コードは光の振動数の情報を持たない。そのため、光学的厚みが光の振動数によって異なる効果を十分には考慮に入れていなかった。しかし、実際には光子のエネルギーによって光球面が異なるため、観測されるスペクトルだけでなく円盤や噴出流の構造にも影響を及ぼす可能性がある。そこで第2の研究テーマとして、光子のエネルギーの情報を持つ新しい一般相対論的輻射磁気流体コードを構築することを挙げる。このコードを用いてシミュレーションを実行することにより、より現実的な計算が可能となるだけでなく、スペクトルの時間変動も調べることが出来る。
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Causes of Carryover |
所属機関より論文出版費の補助を得られたため。そのお金は次年度の論文出版費に使用する。
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Research Products
(15 results)