2017 Fiscal Year Research-status Report
チオカルボニル色素内包カーボンナノチューブの開発と応用
Project/Area Number |
17K14448
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
三宅 秀明 山口大学, 創成科学研究科, 助教(特命) (30722425)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 有機色素 / チオカルボニル / カーボンナノチューブ / チオフェン / フェロセン / 光触媒 / 色素増感 / π共役系 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、カーボンナノチューブ(CNT)に有機色素を内包させ、光機能デバイスの可視光利用効率を向上させることを目的としている。特に、チオカルボニル基の特性を活用して、コンパクトかつ機能性の高い色素の開発および簡便な方法でのCNT内包の実現に注力している。 これまでに、ジチオフェンをコアとする色素を開発し、そのCNT内包に成功してきたが、より長波長の可視光利用を目指し、チオフェン四量体であるクォーターチオフェンをコアとする色素開発を行った。まず、フェロセニルカルボニル基を有するチオフェン臭化物とジチオフェンの直接アリール化反応によって目的のクォーターチオフェン型分子骨格形成を検討したが、生成物の収率は35%にとどまり、溶解性にも難があった。そこで、臭素部位の隣接位にメチル基を導入した基質で検討したところ、収率は64%に向上し、溶解性も大幅に改善した。さらに、得られた化合物をローソン試薬で硫化することで、二つのチオカルボニル部位を有する目的の色素化合物を得ることに成功した。得られた色素化合物の紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、その吸収極大波長は519nm(ε=34200)であることがわかった。ジチオフェンをコアとする色素の吸収極大波長は477nm(ε=26800)であるため、コアのπ共役系伸長による吸収帯の長波長シフトが明らかとなった。得られた色素を有機溶媒中でCNTと混合することで、簡便に内包させることに成功した。色素内包により、300~700nmの広い範囲でCNT分散液の光吸収増が確認された。 ジチオフェンをコアとする色素を内包させたCNTを光触媒システムに応用し、水素の量子収率を向上させることに成功した。特に、波長550 nmの光を用いた場合、色素なしの光触媒では水素の量子収率はわずか0.4%であったのに対して、色素内包型では量子収率7.5%を記録した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の目標は、プロトタイプとなる色素の合成とCNT内包であるが、その目標を十分に達成できたと考えられる。最初の検討では、分子骨格形成反応において低収率および目的物の低溶解性という問題があったが、メチル基の導入によりそれらの問題を解消することができた。また、得られた色素分子のCNTへの内包にも成功した。旧世代の色素の内包と同様に簡便な方法で内包させることができ、前述のメチル基は内包の障害にならないことが明らかとなった。この成果により、プロトタイプ色素の合成とCNT内包が達成されたと言え、今後の研究を円滑に進めることができると考えられる。 また、応用研究分野においても顕著な進展があった。色素を内包させることによってCNT利用型光触媒による水素製造活性が向上することを見出し、内包された色素の増感効果を実証した。 以上のことから、本研究課題は順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度において、プロトタイプ色素の合成とCNTへの内包を達成することができた。今後はこの知見を応用して、様々なバリエーションの色素化合物を合成する。得られた色素について、各種物性測定およびCNTへの内包検討を行い、その特性を明らかにする。得られたデータを比較・解析し、色素の構造と各種物性および内包効率との関連性を明らかにする。さらに、得られた色素内包CNTについて、各種スペクトル測定を行い、色素とCNTの相互作用や電子移動のメカニズムを解明する。また、得られた色素内包CNTを光触媒や太陽電池に応用し、その効率改善を検討する。
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Causes of Carryover |
試薬や実験器具など、色素合成に用いる消耗品を購入予定であったが、これまでの研究に用いていたものを活用することができ、支出が抑えられた。旅費については、計画通りに学会への参加や共同研究打合せを行ったものの、別プロジェクトの発表や打合せと重なったため、費用は別の予算から支払った。よって計画よりも支出額が少なくなり、次年度使用額が生じた。 次年度は新たな色素分子のバリエーション合成を行う予定であり、その原料となる試薬を購入する予定である。特殊なチオフェン試薬や有機金属試薬は高価なものも多いため、それらの購入費用に充当する予定である。また、他の種類のカーボンナノチューブを用いた検討も行いたいと考えており、その購入費用として活用する予定である。
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Research Products
(12 results)