2017 Fiscal Year Research-status Report
コクサッキーウイルスB群3のin vivoにおける抗腫瘍免疫誘導の検討
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17K15755
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
廣瀬 理沙 東京大学, 医科学研究所, 特任研究員 (30637012)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | コクサッキーウイルスB群3型 / 抗腫瘍免疫 / calreticulin / HMGB-1 / PD-L1抗体 |
Outline of Annual Research Achievements |
腫瘍溶解性ウイルスCVB3の臨床応用へ向け、CVB3がin vivoで免疫誘導細胞死(ICD)を介する抗腫瘍効果を有する事を検討するため、CVB3の抗腫瘍効果、抗腫瘍免疫のin vitroにおける検討とin vitroで確認されたCVB3の抗腫瘍免疫誘導をin vivoにおいて確認する実験を行った。 CVB3の抗腫瘍効果にICDが寄与している事を示す実験として、ICD特異的に誘導される物質がCVB3の感染によって誘導された腫瘍細胞(dying cells)を免疫応答性マウスに投与し、マウスの全身の免疫を惹起させたところに生腫瘍細胞(live cells)を投与して腫瘍形成能を評価する方法を試みた。初めにCVB3が感染可能でしかもかつCalreticulin、HMGB-1といった免疫誘導細胞死で特異的に誘導される分子をCVB3の感染で誘導するマウス腫瘍細胞を選択した。しかし、先行研究でICDの検証に使用されるマウス線維肉腫細胞(MCA205細胞)は、CVB3のレセプターを発現しないことから、MCA205細胞にヒトCVB3受容体を強制発現させた細胞(F4細胞)を樹立した。次にそれらの細胞がCVB3の感染で細胞内のCalreticulinを細胞表面に誘導することを確認した。更にF4細胞にCalreticulinを誘導する条件でCVB3を感染させ免疫応答性マウスに投与した。一週間後に腹部反対側に生腫瘍細胞を投与するとICD非誘導体化合物処理群と比べて、CVB3群で腫瘍径増大の遅れを認めた。この結果からCVB3がマウスの抗腫瘍免疫を誘導することによって腫瘍の増大をさらに抑制する可能性が考えられた。マウスの免疫誘導に、Calreticulin、HMGB-1がどの程度寄与しているのかは、それぞれをノックアウトした細胞を用いて現在検討中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、①マウス腫瘍細胞でCVB3が免疫誘導細胞死で特異的に誘導される分子、Calreticulin、HMGB1を誘導するかを検討する。②免疫原性細胞死を誘導する物質Calreticulin、HMGB1 をノックダウンした腫瘍細胞をin vitroの系で作製する。③Calreticulin をノックダウンした腫瘍細胞をマウスに投与し、抗腫瘍効果を評価する実験を進める計画であった。しかしながら、実験に用いるマウス腫瘍細胞を1種類ではなく2種類用いた方がCVB3の抗腫瘍効果を証明するのに有効と考え、マウス線維肉腫細胞とマウス大腸がん細胞において①をin vitroで検討することとした。また①において、免疫原性細胞死を誘導する際に、すでに抗がん剤として使用されているポジティブコントロール、ネガティブコントロールと比較した方が効果の程度を評価できると考え、ポジティブコントロール、ネガティブコントロールの条件検討を行うように計画を変更した。更に、②については、ノックダウン細胞を作製するよりもノックアウト細胞を作製する方がよりCalreticulin、HMGB1の免疫原性細胞死への寄与を明確にできると考え、計画を変更した。以上の変更に伴い、平成29年度終了時点で②が途中であり、③は予備検討のみにとどまっている。しかしながら、平成30年度に行う計画であった担癌マウスにCVB3を投与し、経時的に腫瘍の大きさを測定して抗腫瘍効果を評価する実験については、おおよそ投与のタイミングなどについて検討できている。従って、研究の申告状況は、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、「現在までの進捗状況の理由」に記載した②免疫原性細胞死を誘導する物質Calreticulin、HMGB1 をノックアウトした腫瘍細胞をin vitroの系で作製する。③Calreticulin をノックアウトした腫瘍細胞をマウスに投与し、抗腫瘍効果を評価する実験を進めると共に、HMGB1 をノックアウトした腫瘍細胞をマウスに投与し、抗腫瘍効果の検討とCVB3の抗腫瘍免疫の増強を狙い免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-L1抗体とCVB3の併用投与を行い、CVB3とPD-L1抗体の併用療法の開発を行う。具体的には、ウイルス初回投与時点から抗PD-L1 抗体治療を開始する。治療には抗マウスPD-L1 抗体とCVB3を腫瘍内に投与し、対照群には抗マウスPD-L1 抗体投与のみ、CVB3投与のみ、生食投与のみの各群を用意し、各々の治療は隔日で5 回行う。 今後の研究の課題は、CVB3の抗腫瘍効果が既存の免疫原性細胞死を誘導すると報告されている抗がん剤と比べて、どの程度の効果を有するか評価すると共に、PD-L1との併用療法の開発ではCVB3の抗腫瘍効果、抗腫瘍免疫をより高めることができる点であると考えている。この課題を解決するために、in vivoにおいて免疫原性細胞死誘導能を有する抗がん剤投与群を設けて、CVB3群と比較する実験を行う。また予定よりも早くPD-L1抗体が準備できれば、当初の計画と順番を入れ替え、CalreticulinまたはHMGB1ノックアウト細胞を用いたin vivo実験より先にPD-L1抗体とCVB3の併用投与実験を進め、全ての実験の平成30年度内完了を目指す。
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Causes of Carryover |
平成29年度は学会参加がなかったため、計上していた旅費の100,000円を使用しなった。平成29年度に予定していた3つの実験、①マウス腫瘍細胞でCVB3が免疫誘導細胞死で特異的に誘導される分子、Calreticulin、HMGB1を誘導するかを検討する。②免疫原性細胞死を誘導する物質Calreticulin、HMGB1 をノックアウトした腫瘍細胞を作製する。③Calreticulin をノックアウトした腫瘍細胞をマウスに投与し、抗腫瘍効果を評価する実験において、平成29年度終了時点で②の途中であり、当初計上した遺伝子工学を用いた実験に必要な経費を全額使用しなかった。また、PD-L1抗体の準備を予定していたが、精製方法と必要試薬、器具について検討するのみに留まり、試薬、器具は平成30年度に購入することとした。以上の理由により、平成29年度の残額は608,141円となり、次年度に使用することとした。 平成30年度の旅費はすでに計上している金額で十分と思われる。したがって、次年度使用額である608,141円は、上記②、③およびPD-L1抗体の精製に使用したいと考えている。
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