2017 Fiscal Year Research-status Report
LC-MS/MSを用いたチオ硫酸測定による硫化水素中毒診断の確立
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17K15874
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
的場 光太郎 北海道大学, 医学研究院, 助教 (00466450)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 硫化水素中毒 / 法医学 / 法中毒学 / 死後変化 / チオ硫酸塩 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の本年度の予定はLC-MS/MSを用いたチオ硫酸塩の分析法の確立であった。我々は先行研究を実施しており、比較的粘性の低い血清での同分析法は確立していたものの、法医検体では死後変化等により血清の分離が困難であるため、全血による分析法の応用・開発が必要であった。血清検体においては、前処理は希釈のみであったが、全血では血球成分などでLCカラムを詰まらせ連続分析ができないことが判明しており、全血用の前処理の検討が不可欠となった。 一般的に薬物分析での前処理は固相抽出が主流であるが、それは薬物の極性によって振り分ける方法であり、比較的低極性の物質に有効である。チオ硫酸塩は高極性物質であり、逆相の固相担体では吸着せず、順相担体では非常に高濃度の酸を用いなければ溶出させられず、固相抽出には適さないことが分かっている。そこで種々の検討を行ったところ、物質の粗精製に限外濾過膜を使用することをヒントに、それを前処理に応用できないか検討した。 限外濾過膜サイズを変えて様々な検討を行った結果、限外濾過膜自体の詰まりを避けるために大きめのサイズと最小サイズの2種類の膜を段階的に組み合わせることを見出した。その前処理法を用い、分析法の各種バリデーションでは問題ないことが確認され、全血の測定法が可能となった。本法は先行の血清についても用いることができ、さらに尿や胸水などの他の体液においても応用可能であることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
チオ硫酸塩のような高極性の無機塩をターゲットとしたLC-MSの前処理ではシリカゲル系担体の固相抽出は適さないのは想定された通りであり、それ以外の前処理法を考案する必要があった。現在までの結果では限外濾過膜を用いる方法が迅速・簡便であり最適と判断した。しかしながら、分析目的物質の限外濾過膜への吸着などで定量値が低くなるなど、分析データに影響がある可能性も否定できなかった。硫化水素非中毒群とされる低濃度から中毒とされる高濃度域までの添加回収試験等の詳細なバリデーション実験の結果は良好で、前処理の影響は確認されなかった。これにより分析法の開発は完成し、今後は計画通りに各種検体の分析を進められるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
チオ硫酸塩の死後変化による影響の有無に関する検討及びチオ硫酸塩の測定の際の適切な検体の採取部位の解明をしていく予定であり、年間約400件の法医解剖例で硫化水素中毒ではない事例の中で腐敗を認めた群と腐敗を認めない群に分けて、血液などの検体のチオ硫酸塩を測定していく予定である。法医解剖例では様々な理由から血液が採取できないこともあり、血液以外の検体のチオ硫酸塩の測定も実施していく予定である。 死体検案や法医解剖で採取された血液は直ちにチオ硫酸塩を測定されないこともしばしばあり、チオ硫酸塩の測定の際の適切な保存条件に関する検討も行う予定である。常温や冷蔵、冷凍で保管場合にチオ硫酸塩がどのように変化するのか、1週間、1カ月、3カ月間の保管実施後にチオ硫酸塩の濃度を検査して、保管による影響を検討する予定である。
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