2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K18246
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Research Institution | Kyoto University of Art and Design |
Principal Investigator |
今村 信隆 京都造形芸術大学, 芸術学部, 准教授 (90793620)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 美術批評史 / 博物館史 / 声 / 博物館の公共性 |
Outline of Annual Research Achievements |
ミュージアム(特に美術館)における声という問題を扱う本研究では、博物館学はもとより、美学・美術史や美術批評史といった幅広い分野にまたがる資料にあたる必要がある。本年度は、そのなかでも議論の出発点になると考えられる一七世紀フランスの絵画論を中心に精読を行い、問題点の整理を試みた。その結果、次の二点が明らかになってきた。 第一に、当時の代表的な絵画理論家であるロジェ・ド・ピールとアンドレ・フェリビアンの対話編のなかで、話者たちの声、話しぶり、会話における洗練度などが、議論の運びそのものにも影響を与えるような重要な要素になっているということである。このうち、ド・ピールについてはすでにある程度の指摘をしたことがあるが、フェリビアンについても同様の指摘が可能であることが判明した。 第二に、しかしその一方で、王立絵画彫刻アカデミーにおいて口頭で行われていたはずの「会議」においては、話者の声色や話しぶりといった要素は削減され、あくまでも文書として刊行することが目指されていくというプロセスが、明らかになった。アカデミーにおいては、口頭でのやり取りのなかにあった多様な意見の存在が整理され、批判とそれに対する反証というかたちで、統一の見解がもたらされようとしているのである。このことは、制度としてのアカデミーにも大いに関わる問題であり、同時に、美術作品をみるという制度としても、以後の鑑賞経験の土台になっていく出来事であると考えられる。 上記の二点の関係については、現在、まとまった論考を準備しているところである。 また、本研究の終着点にあたると思われる20世紀の美術批評史についても、本年度はクレメント・グリーンバーグを中心に再整理を試みた。特に、比喩としての「詩」が議論される個所において、朗読や声が本質的でないものの例示として語られていることが見いだされ、今後の研究の指針が得られたところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究の進捗がやや遅れている最大の理由は、本研究とは別のところで進めていた博物館学の教科書『博物館の歴史・理論・実践』(藝術学舎、2018年刊)の準備に予想していた以上のエフォートを費やしたことにあると考えている。これは、私自身が編者となって準備したもので、すでに第1巻、第2巻は2017年に刊行していたものの、最後の第3巻の刊行に大いに時間を費やしてしまった。 ただ、本研究の最終的な目標として博物館の公共性というキーワードを掲げているが、この公共性に関しては、『博物館の歴史・理論・実践』のなかでも、予備的な整理を試みることができた。したがって、今回の教科書編纂の仕事は、回り道ではあるものの、本研究の最終成果をより現代的な、より具体性をもったものにするうえで、一定の寄与をするものと前向きにとらえている。
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Strategy for Future Research Activity |
議論の出発点が一七世紀フランスの絵画理論であるという点は、当初の研究計画と変わらない。ただ、二〇世紀の批評家クレメント・グリーンバーグの評言のなかに、本研究とも大いに関係がある声や朗読をめぐる比喩が登場してくることが明らかになったため、ここについても重点的に調べ上げていく必要が出てきたと考えている。今後は、グリーンバーグ当人の文章に加え、彼が推進していく美術運動や、ニューヨーク近代美術館のアルフレッド・バー・ジュニアの動向などを視野に収めていくことを、予定している。議論が総花的なものにならないよう、声という軸そのものは堅持しながら、一七世紀の論者たちがもっている隠れた現代的意義について考察を続け、成果を発表していきたい。
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Causes of Carryover |
本研究と別の事業である博物館学の教科書『博物館の歴史・理論・実践』シリーズ(藝術学舎、2018年刊)の編集業務が予想を上回って繁忙であり、思うように研究に力を割くことが出来ずに、未使用額が発生してしまった。次年度は所属機関が変わり、本研究に注力できる体制がよりいっそう整うため、鋭意、研究を進めていきたいと考えている。
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