2018 Fiscal Year Research-status Report
シーア派イスラームの聖廟・墓地の形成と発展:法理論と地理空間情報による総合的研究
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17K18456
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
守川 知子 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (00431297)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | 墓 / シーア派 / 死生観 / イスラーム / 都市 / 地理空間情報 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、イランのシーラーズ市のダール・アッサラーム(Dar al-Salam)墓地や、シャー・チェラーグ廟、ハーフェズ廟およびそこに隣接する一般墓地、イブラーヒーム廟、ビービー・ドホタラーン廟、スィーブーエ廟、シャイフ・ルーズベハーン廟など、旧市街の中に点在する聖者廟、また郊外に広がる現代の一般墓地の現地調査を重点的に行った。さらに、タブリーズ市のダール・アッシュアラー(Dar al-Shu'ara)墓地、アルダビール市のシャイフ・サフィー廟といった、都市の最も有名かつ歴史的な一般墓地や聖廟について調査した。これらの墓地や聖者廟の立地からは、都市域の発展と墓地(および聖者廟)の間には明確な関連があることが明らかとなった。 また、前年度に発見した新出資料である、1920年代のシーラーズ旧市街の『死亡者帳簿(Daftar-e motavaffiyat)』(約1000名の死亡者の名前・年齢・職業・居住街区・死亡原因/病名・罹患期間・墓地・死亡診断医・葬儀場所・その他について記載がある)の文字起こし作業を進め、帳簿全体のデータベース化を行った。 さらに、シーア派イスラームに特有の「移葬」(すなわち、聖者廟やイマーム廟に死体を運び、埋葬すること)について、「聖地に眠る」というシーア派ムスリムの死生観、国境を越えて死者を運ぶ19世紀の移葬の実態、拡大する聖者廟と墓地、という観点から研究をまとめた(守川知子「移葬の心性史――シーア派イスラーム社会における死者の聖地巡礼」『比較文明』34、2018年11月、27-44頁)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ひとつの都市の一般墓地をくまなく調査することにより、都市形成における墓地の立地が非常に重要な役割を果たしていたことが明確になりつつある。また、これまでまったく利用されたことのない新たな資料の発見と、その資料の検討を通じて、本研究の仮説が当初の到達目標以上に説得性をもって立証することが可能な段階となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
『死亡者帳簿(Daftar-e motavaffiyat)』の精査、聖地(聖廟)と「移葬」に関して文献資料からの分析・検討を進めるとともに、イスファハーンの墓地の実地調査を通じて、イスファハーン、タブリーズ、シーラーズの三都市の比較検討を行う。
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Causes of Carryover |
調査対象地がイランのため、ヴィザの都合(アメリカへの入国が不利になる)により、単独で渡航をせざるを得ず、また知己のいないタブリーズ・アルダビール等での現地調査を行ったため、現地の研究協力者への謝金等の支払いが不要であった。次年度は、本格的にイスファハーンの調査を実施するため、旅費および謝金は現地調査の際、使用する計画である。
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