2017 Fiscal Year Research-status Report
テクストの分節と階層化を考察基盤とする書記コミュニケーション史の構築
Project/Area Number |
17K18484
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
鈴木 広光 奈良女子大学, 人文科学系, 教授 (70226546)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | 日本語学 / 句読法 / 文体論 / 読書史 / 印刷史 / 表記論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、次年度以降の分析と考察のための基盤整備を中心に行なった。実績は以下の通りである。 (1)テクストの分節指標の種類と表記、文体、ジャンル、テクスト形態との対応関係を明らかにするために表記、文体、ジャンル、形態(文書か書物か、写本か版本かなど)、制作年代など属性の異なる資料をサンプルとして選定し、資料の紙面、版面に観察される分節指標について、それが記号類(句読記号、括弧類、段落記号)か、文字の連綿や肥痩などの視覚的要素か、文体に応じた定型語句かを各々記述し、分節指標とテクストの属性との対応関係を探るためのデータベースを作成した。本年度は特に日本で句読記号が使い分けされるようになった明治17年から25年くらいまでの出版物を中心に選定して、調査とデータベース入力を行なった。 (2)選書の際、同一テクストであっても、形態の異なるものがあれば、積極的に選定して、属性による差異を見極めやすいように配慮したが、この点に関して末広鉄腸の『二十三年未来記』を中心に資料収集と分析を行なった。『朝野新聞』初出や明治19年の際の夥しい数の版には句読点使用はないが、後の物と改行や配置など分節指標を比較するために、集中的に分析を行なった。『二十三年未来記』については、書誌、印刷史的知見とパラテクスト的諸要素との関係について考察を行ない、広義の句読法を考える上での基盤とするための論考を、「複製技術時代の書物のアイデンティティ―末広鉄腸『二十三年未来記』の場合(上)―」と題して公刊した。 (3)他のアジア地域や西洋における句読法と読書、文体の関係についての先行研究を網羅することを目的に参考文献の収集を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)データベース作成については、日本の各時代の文献資料を網羅したものを目指しており、資料収集を進めているが、その入力については本年度、研究代表者が最も重視する明治初期から中期のものを行なうにとどまった。もう少し年代的にも形態やジャンルの面でも多様なものを入力して今後の研究を俯瞰できるようにしたかったが、明治初頭の出版物についての論文を成果として公表することを優先したためである。 (2)先行研究に関する参考文献の収集については、当初の計画通り、順調に進んでいる。 以上、二点の理由により、おおむね順調に進展していると自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は以下の二点を研究の推進方策として考えている。 (1)平成29年度に引き続き、表記、文体、ジャンル、形態、制作年代など属性の異なる資料をサンプルとして選定し、サイズ・書体の異なる文字の配置の仕方、記載順序による階層性表示等の観点からレイアウトの類型を記述し、テクストの属性との対応関係を探るためのデータベースを作成し、本年度中には完成させる。この計画のための図書館、公文書館所蔵資料調査を行ない、30年度中にこれを終えるようにする。 (2) 収集した資料について、紙面・版面のレイアウトの記述を行う。その際、分節指標およびテクスト属性との関連性を絶えず考慮に入れながら、テクストにおける指示内容統御機能と享受者による意味解釈の関係を考察する。 なお、本研究課題については、論文による成果の公表のほか、学際的新領域の方向性を示すための単行本執筆と刊行を考えている。30年度、31年度は出来るだけ研究時間と研究費用をこのために割きたいと考えている。、
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Causes of Carryover |
(1)二泊三日の東京出張で調査を行ない、複写物をデジタルデータで入手する予定であった資料が、29年度中にWeb上で画像公開され、現代段階での調査とデータ入手は必要ではなくなった。その金額が次年度使用額となった。 (2)欧米における句読法を調査するための資料、書籍代が当初見込みよりもかかることが判明したので、そちらの金額に充当させるようにしたい。
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Research Products
(1 results)