2017 Fiscal Year Research-status Report
Imagawa Ryoshun's Kana Preferences in His Own Work and Interpretations of Classics
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17K18500
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Research Institution | Kobe City College of Technology |
Principal Investigator |
林田 定男 神戸市立工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (50713682)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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Keywords | 仮名遣 / 用字意識 / 異体仮名 / 書記 / 書写 / 自筆 / 表記史 / 今川了俊 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、(A)書記における個(異体仮名使い分けの基準・個人差)、(B)藤原定家の用字法の享受実態、これらを解明することである。日本語の文字・表記研究の分野ではともに重要なテーマであるが、解明は容易でない。なぜなら、書写資料の調査をしたところで、親本(書き本)表記の影響が想定されるため、個人の用字(仮名遣、異体仮名の使い分け)の特徴を明確にできないからである。しかし、今川了俊の場合、自筆書記資料、自筆書写資料の双方が現存しており、個の用字法の解明が可能と考えられる。 (A)書記における個の問題の解明 文字・表記研究の根幹にかかわる、個の問題の解決へ向けたアプローチとして、今川了俊自筆本『厳島詣記』(書記資料)および自筆書写本『源氏物語』(書写資料)の文字調査を行った。当初の予想どおり、これらの資料間の用字傾向(仮名字体の偏り)は完全には一致していないことが確認された。さらに、一方の資料にのみ見られる仮名字体の存在が明らかになった。書記資料にのみ見られる仮名(字体)は筆者の意思、書写資料にのみ見られる仮名(字体)は親本表記の影響によるものと推測される。 (B)藤原定家の用字法の享受実態の解明 藤原定家の玄孫、冷泉為秀を歌道の師とする今川了俊は、冷泉家歌学を体系づけたとされる。また、了俊が著した『言塵集』には定家著『下官集』所載の「定家仮名遣」の実例を示す箇所が引用されている。したがって、了俊は定家仮名遣を遵守する意識が高いように推察される。ところが、彼の自筆本『厳島詣記』の仮名遣の実態から、表記規範意識の連続性(定家仮名遣の遵守)が認められないことが判明した。また、副次的成果として『厳島詣記』の諸伝本には「うた津」の景観を記した部分(3月7日)に約1行分の欠落があることが判明した。伝本過程を考える上で注目される。 以上の知見の一部については、関西大学国文学会にて口頭発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今川了俊自筆本『厳島詣記』(書記資料)および同自筆書写本『源氏物語』(書写資料)の文字調査が完了した。書記資料と書写資料との用字比較から、当初の予想通り、それぞれに特徴的な仮名(字体)が特定された。つまり、「個の問題の解明」につながる重要な手がかりが得られた。これにより、検討の余地はあるものの「書記における個の問題」についてのミニマムモデルの提示が可能となった。 また、書記資料の調査により、今川了俊における「藤原定家の用字法の享受」実態も明らかにした。さらに、この調査から一般に流布している『厳島詣記』本文の欠落の発見という副次的産物も得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、今川了俊自筆書写『撰集抄』(書写資料)の用字実態調査を進める。この結果と、現在判明している書記資料と書写資料、どちらか一方にのみ見られる仮名(字体)との関係から、先述のミニマムモデルの精緻化、場合によっては再構築を行う。 また、了俊の著した歌学・歌論書の記述から彼の言語(規範)意識を探る。
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Causes of Carryover |
本年度は個人的事由により、学外での調査を控えた。そのため、調査はほぼ複写・影印資料に拠ったため、旅費に割り当てていた予算が余るかたちとなった。今後は、適宜、学外での調査を行う予定である。
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