2019 Fiscal Year Research-status Report
社会的状況における学習戦略の統計モデリング:認知の可塑性の外縁を探る
Project/Area Number |
17K18718
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Research Institution | The Institute of Statistical Mathematics |
Principal Investigator |
川森 愛 統計数理研究所, データ科学研究系, 外来研究員 (50648467)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 意思決定プロセスモデル / 状態空間モデル / 採餌戦略 / 最適採餌 |
Outline of Annual Research Achievements |
[使用したデータ] 本年度の研究は,北海道大学松島研究室において遂行されたヒヨコを用いた行動実験のデータを解析した. 1.限られた観測から行動評価するための統計モデルの作成 動物の行動は複数の「モード」に分けられる.例えば,餌場を探索するモード,その餌場に見切りをつけ離脱するモード,次の餌場まで移動するモード,などである.モードは実験者が見れば前後の文脈から区別することは容易なのだが,プログラム等で自動的に切り出すのは難しい.そのため,自動記録装置を用いた観測は一定間隔時間ごとの離散データにならざるを得ない.このようなデータで餌場の滞在時間や離脱タイミングなどを正確に評価しようとすると,通常の方法では困難である.本研究ではこれらを統計的に扱うための手法を考案した.これにより,滞在時間に影響を与える要因を統計学的に正しく調べることができるようになった. 2.餌場探索における意思決定プロセスモデルの作成 本研究の当初の計画では,学習戦術を明らかにすることを目的としていた.そのために,まずヒヨコの基本的意思決定プロセスの枠組みを明らかにする必要がある.そのプロセスの日数変化を追うことにより,ヒヨコの学習戦術を議論することができるのである.本年度の研究は,第一段階にあたる餌場離脱に伴うヒヨコの意思決定プロセスの解明を進めた.行動実験の設定では,餌場の収益は探索時間とともに指数関数的に逓減した.このような餌場に対し,ヒヨコが理論的最適解を解析的に知ることはできないと想像される.そこで,ヒヨコが利潤率(=収益/時間)を随時モニタリングし,その観測された最大値からの差に依存した確率で離脱が起こるモデルを考えた.実験データは理論的最適値より滞在時間が長くなる傾向が観測されたが,このようなモニタリングモデルを考えることにより,データを説明することが可能となった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の当初の計画では,国外において実験を行いそのデータを解析する予定であったが,国外協力者の都合から実験は保留となり,本年度は国内で得られたデータの解析に専念した.現状のCOVID-19の流行により,当面は海外渡航の安全は保証されないことからも,海外における実験は断念し,今後の追加実験も合わせて国内で研究を完結させることとした.これらの大きな研究計画の変更点を考慮するに研究の進捗が順調であったとは評価し難い.また,解析する実験スキームの変更から必要なデータ処理作業が増えたため,進捗にも多少の遅れが生じた.
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Strategy for Future Research Activity |
1.本年度に構築した意思決定プロセスモデルについて,学術論文としてまとめ投稿する 2.上記のモデルを拡張し,学習プロセスを含めたモデルを構築する.学習モデルとして,単純であるが習慣依存性が現れるロス・エレブ型モデルと,認知的負担は増加するが精確な学習が可能なレスコラ・ワグナー型モデルを比較し,ヒヨコがどちらに近い学習を行うか検証する.可能性の一つとして,実験条件群による学習戦術の違いが現れ得る.初期に簡単なタスクを課された条件群(多少の労力で餌を得られるため,即座に学習が起こる)と,初期に困難なタスクを課された条件群(多大な労力を払わなければ餌にありつけないため,そもそも学習の機会が得られにくい)の間で,学習戦術が異なる可能性がある.実験スキームの異なる過去の研究データ(Kawamori & Matsushima 2010)を用いた検証では,初期の実験の困難さが学習戦術の違いに結びつく傾向が見られた.ヒヨコが種として持つ学習戦術を検証するため,実験スキームが異なるこれらの二つの研究データを交えて,学習戦術の個体分布を調べる. 3.競争採餌条件における社会戦術を検証する.集団で採餌を行う場合,自ら生産するか他社から略奪するかという,戦略的思考が必要になる.特に,ヒヨコは自然状況において群れで採餌する動物であり,競合による強い淘汰圧に晒され,個体採餌の際ですら競合を前提とした行動をとっている可能性すらある.このような動物であることからも,当初の研究計画にある採餌における社会戦術(生産or略奪)の検証は必須である.新たな実験として他者との競合状況を含む実験を行い,個体採餌と同様の学習戦術解析とともに,社会戦術に関する意思決定についての解析を進める.実験は北海道大学との協力のもとで行う.
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Causes of Carryover |
当初計画では,国外の大学において実験を行い,データを取得する予定であった.打ち合わせ等も合わせて,年数回の海外渡航を予定しており,そのための渡航費用を計上していたが,先方の都合により実験は中止となり,その分の費用が使われなかった.また,研究の遅れにより論文の投稿が年度を跨いだため,投稿費用として予定されていた分が次年度に繰り越された.
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