2017 Fiscal Year Research-status Report
振動温度の非平衡性を活用した新しいプラズマ反応プロセスの開拓
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17K18767
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
佐々木 浩一 北海道大学, 工学研究院, 教授 (50235248)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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Keywords | 振動励起状態 / 再結合プラズマ / 非平衡プラズマ / 炭酸ガスリフォーミング |
Outline of Annual Research Achievements |
現有のヘリコン波プラズマ発生装置を研究計画調書に記載した方針に沿って改造し,上流の高密度電離進行水素プラズマと下流の炭酸ガス添加再結合水素プラズマからなる実験装置を構築した。下流部チャンバーに導入する炭酸ガスが上流部に逆流し,電離進行プラズマによって電子衝突解離されることが無いように,下流部チャンバーを1000 l/sの排気速度を有するターボ分子ポンプを用いて真空排気した。下流部チャンバー内のガスを四重極質量分析器を用いて分析した。また,再結合プラズマからの水素原子バルマー系列の発光スペクトルとサハ・ボルツマン方程式とのフィッティングを取ることにより,再結合プラズマの電子温度および電子密度を求めた。 研究計画調書において目標として掲げた振動励起状態にある炭酸ガスと水素原子の会合反応によるギ酸の直接生成について調べるため,四重極質量分析器で得られる質量スペクトルをマトリックス法を用いて詳細に解析したが,残念ながら,ギ酸の生成を示す証拠は見いだせなかった。気相中でギ酸が生成されている可能性が高いものの,その反応性の高さから,真空容器表面(特に質量分析器との接続に用いた小径の金属オリフィス)における損失が大きいために検出が難しく,生成されたギ酸をトラップするための別のアイデアが必要であると判断した。一方,質量分析器のデータおよびプラズマの電子密度から下流部における電子衝突に起因する炭酸ガスの分解反応のレート係数を実験的に評価したところ,その値は上流の電離進行プラズマにおける反応レート係数より大きく,電子温度が0.25 eVの時に最大値を取ることがわかった。このような超低電子温度プラズマでは電子衝突解離のレート係数は無視できるほど小さいことから,下流部の再結合プラズマで得られた解離反応は振動励起状態を経た反応であると考えられ,その効率の高さを実験的に実証することに初めて成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画調書において目標として掲げた,振動励起状態にある炭酸ガスと水素原子の会合反応によるギ酸の直接生成を実証するには至っていないが,計画通りの実験装置を構築し,超低電子温度の再結合プラズマにおける炭酸ガスの反応過程を実験的に調べることに成功している。また,プラズマの電子温度と電子密度が放電条件に対してどのように変化するかを詳しく測定することができている。 振動励起状態を経た炭酸ガスの分解反応は,最近世界的に高い注目を集めているが,電子温度が数eVの電離進行プラズマを用いると,電子衝突の結果として解離反応と振動励起状態の生成が同時進行するため,解離反応における振動励起状態を経た反応の寄与を明確に示すことは難しかった。今年度の実験の結果,電子衝突解離が生じない超低電子温度再結合プラズマにおける炭酸ガスの分解が実証され,しかも,その効率は電離進行プラズマにおけるそれよりも高く,電子温度が0.25 eVの時に最大値を取ることがわかった。この結果はめざましい成果であり,本計画の進捗はおおむね順調であると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
プラズマを用いた炭酸ガスのリフォーミングには様々な反応プロセスがある。炭酸ガスを一酸化炭素に分解することは最も単純なプロセスであるが,平成29年度の研究によって,このプロセスにおける振動励起状態に寄与を明確に示すことができた。本研究は,振動温度の非平衡性を活用した新しいプラズマ反応プロセスの開拓を目指すものであり,平成30年度においても炭酸ガスの振動励起状態に基軸をおいた研究を展開する。 ギ酸の生成から一旦離れ,炭酸ガスの分解に関するより緻密な研究を行うために,プラズマ生成のガスをヘリウムに取り替え,原子状水素と炭酸ガスの化学反応が生じない条件において,平成29年度と同じ実験を繰り返す予定である。これにより,低エネルギー電子と炭酸ガスの衝突による振動励起状態の生成,および振動励起状態を経た分解プロセスの効率をより正確に求めることができると考えられる。 次に,メタンのリフォーミングにおいてはメタンの振動励起状態が注目を集めているので,メタンと炭酸ガスの間の反応プロセスにも取り組みたい。この場合には,触媒を併用する反応プロセスへの展開が有望な研究課題になると考えている。 最後に,研究計画調書において取り上げた,振動励起状態の炭酸ガスと原子状水素との会合反応によるギ酸の生成は,実証されれば非常に高い科学的インパクトを有する。現状では,質量分析器との間を接続する金属オリフィスの表面でギ酸が失われ,検出を困難にしていると考えられる。オリフィスを石英などのギ酸との反応性が低い材料に変更する。また,ギ酸は液体に溶けて溶液となれば安定化されると考えられるので,真空容器中に氷やイオン液体を設置し,生成されたギ酸を液中にトラップした後に検出する方法を検討する。
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Causes of Carryover |
年度予算において赤字を出さない方向で運用していたところ,2月から3月期において実験の遂行頻度がやや低下したことに起因して実験消耗品費の支出が予想よりやや低下し,結果的に若干(4%)の黒字が残ったものである。これは翌年度の実験消耗品費として翌年度予算と合わせて着実に執行する計画である。
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Research Products
(4 results)