2019 Fiscal Year Research-status Report
Searcg for the signatures of solar super-flare in lunar regolith grains
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17K18807
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
野口 高明 九州大学, 基幹教育院, 教授 (40222195)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
日高 洋 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (10208770)
岡崎 隆司 九州大学, 理学研究院, 准教授 (40372750)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2021-03-31
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Keywords | ソーラーフレアトラック / 超高圧電子顕微鏡 / 宇宙風化 |
Outline of Annual Research Achievements |
太陽面爆発であるフレアやコロナ質量放出に伴って放出されるMeV程度のエネルギーを持つ太陽放射線は,鉱物のような結晶質の物質に衝突すると,Solar flare tracks (SFTs)というごく細い(太さ2 nm)の線状の傷を残す。このSFTsの長さ測定を可能にすれば,過去の太陽の活動について検討可能になるはずとの着想にもとづいて研究を行ってきた。1970年代初めの月試料の超高圧電子顕微鏡(High voltage electron microscope: HVEM)の観察で,SFTsが撮影可能であることは知られていたが,その後はHVEMをつかったSFTsの研究は行われていなかった。本研究では,エネルギーフィルタHVEMを用いることで,厚さ2ミクロンの試料でも明瞭なSFTsが撮影できることを示し,SFTsが108から109本/cm2の数密度しかない場合,HVEMでの観察が重要であることを示した。月及びイトカワ試料を用いて,2ミクロンの試料をHVEMで測定しSFTsの数密度を測定し,同じ試料を厚さ100nmに再加工して通常のTEMで再度観察してSFTsの数密度測定を行い,数密度が低い場合どの程度の誤差が発生するかを見積もることができた。 一昨年,月レゴリス粒子の表面組織をFE-SEMで観察中に,レゴリス粒子中のFeSが多孔質になり,その表面から霜柱状の曲がった金属Feの針状結晶集合体の結晶化が起きているものがあることに気付いた。全く別個にJSPSの特別研究員として研究代表者の研究室に所属する松本博士が,全く同様の物体をイトカワ試料の表面に発見していたので, それをNature communicationsに発表し,松本博士は月試料の同様な組織について投稿論文を作成中である。 大気中での加熱によるSFTsの可視化実験をとSFTsの立体的な分布の3次元再構築実験も引き続き行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
エネルギーフィルター付超高圧電子顕微鏡(Energy filter High voltage electron microscope: EF-HVEM)を使ったSFTsの観察ができることは,本研究によって始めて明らかにされた。1970年代にHVEMで撮影されたSFTsと違い,1本1本のSFTsを分離して撮影できるようになった。この手法は特に,108から109本/cm2の数密度しかないSFTsの場合にSFTsの観察や数密度の測定に特に役に立つことが分かった。今年度末に地球に帰還するはやぶさ2探査機が持ち帰る小惑星リュウグウの試料においても,カンラン石や輝石中に保持されているSFTsの観察分析ではこの手法を適用できるはずである。 本研究に用いる月レゴリス粒子の準備のために,月レゴリス粒子を一粒ずつFE-SEMで詳細に観察することを続けた。その結果,SFTsを作るような高エネルギーの太陽活動だけでなく,通常の低エネルギーの太陽活動(太陽風)に関係した組織や,微小隕石の衝突に伴って作られる組織についての研究も行うことができた。一つは,FeS結晶が多孔質になり,その表面から霜柱状の曲がった金属Feの針状結晶集合体の結晶化が起きる現象である。JSPSの特別研究員として研究代表者の研究室に滞在中の松本博士が,投稿論文を作成中である。小惑星リュウグウ試料にもFe1-xS(磁硫鉄鉱)の結晶が多く含まれていることが予想されるので,C型小惑星表面物質からも同様の物が発見できるのではないかと考えている。 本研究の当初計画では,大気中での加熱によるSFTsの可視化とHVEMを使ったSFTsの立体的な分布の3次元再構築を行う予定であった。これらにについて3年間実験を行ってきたが現状では成功していない。
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Strategy for Future Research Activity |
ソーラーフレアトラックの可視化実験は照射実験試料と月レゴリス試料のどちらでもうまくいかなかった。このため,加熱実験試料をEF-HVEMで観察して,TEMレベルでSFTsの観察の容易化に成功していないかを検討したい。 EF-HVEMによるSFTsの3次元構造の再構築は3年間実験を行って難しいことが分かった。このため,長さ数十ミクロンをこえるSFTsの全体を観察して長さ分布を求めることを行いたい。それには,従来のTEMでは見てこなかったような非常に大きな試料で観察する必要がある。それには従来のFIB-SEMでの加工は不可能である。幸いなことに,今年度末にプラズマFIBが九州大学に導入される。この装置は大きさ数百ミクロンの試料を切り出すことが可能である。そこで,厚さ2ミクロン程度で,縦横100から200ミクロンの試料を切り出して,SFTsを観察して,SFTsの長さ分布を検討したい。
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Causes of Carryover |
コロナウイルスによる渡航の制限のため,研究分担者の名古屋大学の日高教授が韓国での測定ができなくなった。このため,彼の測定を翌年に持ち越した。
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