2018 Fiscal Year Research-status Report
渋滞の奏でる音楽―予兆検知に向けた交通流可聴化理論の構築
Project/Area Number |
17K18912
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
塩見 康博 立命館大学, 理工学部, 准教授 (40422993)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | 可聴化 / 交通流 / 車両感知器 / パルスデータ |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度はi)高速道路における定点観測データの可聴化,およびii)背景音が歩行行動に及ぼす影響に関する実証研究を行った. i)に関しては,高速道路単路部ボトルネックで観測される交通状態を音で表現する手法を構築した.タイムウィンドウを1秒間隔,30秒間と設定し,その中での交通量を音量,平均速度をピッチにロジスティック変換した.音響変換するのは追越車線のみとし,ボトルネック直近とその上流区間の2地点で取得されたデータを用いた.渋滞発生時の交通状況を的確に音に反映させるため上流区間で観測されたデータは,2地点間の距離を自由走行速度で除した時間分だけシフトさせた上で,2地点で観測された”音”を合成した.これにより,速度のズレが”うなり”として音に表現されるため,渋滞発生直前の状況を直感的に理解できることが期待される.自由流状態,臨界状態(渋滞発生前15分),臨界状態(渋滞発生前30秒前),渋滞中の4状態を対象に,可聴化データと可視化データによる判別実験を行った.その結果,可聴化の方が高い精度で判別が可能であることが示された. ii)に関しては,音の要素をテンポ・心地よさ・リズムの複雑さの3つに分類し,それぞれの大小2パターンの組み合わせ全8パターンの楽曲を作成した.その上で,円形歩行路を設定し,その中に密度を変えて歩行者を配置し,8つの背景音に対して歩行実験を行い,各背景音に対する歩行者交通流の密度-平均速度図,および密度-交通量図を作成した.また,密度-交通量関係を2次曲線に近似し,それを用いて交通容量を推計した.走行速度に関して背景音を因子とした分散分析を行った結果,音の要素間で交互作用が確認され,テンポが速くリズムが単純な背景音の場合に有意に平均速度が高くなる傾向にあることが明らかとなった.また,交通容量を比較した結果,テンポが遅いほど交通容量が高くなる傾向にあることが分かった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
オイラー系の可聴化手法を確立することができ,また,実験により渋滞予兆検知の可能性についての検証も完了した.また,次年度にラグランジュ系データの可聴化を行うが,そのためのデータ収集もすでに完了している.以上より,おおむね順調に進行できていると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる2019年度にはラグランジュ系データの可聴化に取り組み,とりわけ追従挙動の不安定性の可聴化を試みる予定である.そのためのデータ収集・整理作業はすでに完了しており,ミクロ交通流理論における安定性解析を理論的背景とした可聴化アルゴリズムを構築する.オイラー系データの可聴化の際と同様に,生成した音により交通状況の把握可能性について,官能試験を行うことにより検証を行う.また,これをドライバーへの交通状況の伝達手段として活用することを念頭に,可聴化変換のリアルタイム化についても検討を行う. 一方,音環境と人間行動の関係については,昨年度の研究成果を深化させることを予定している.まず,昨年度は音の3つの要素を組み合わせたシンプルな楽曲を自作し,歩行実験に用いたが,今年度は一般の楽曲の使用を検討する.その際,SD法により音楽の質を分類し,楽曲を選択する予定である.次に,歩行者実験に際してはボトルネックを模擬した状況,および対面通行の状況など,より現実に即した状況を想定し,実験を行う予定としている.歩行挙動については画像解析により個別の歩行者の移動軌跡を収集し,ミクロ・マクロの両観点から分析を行う.
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Causes of Carryover |
ラグランジュ系データの収集に関わる費用が当初想定とは異なり無料で入手可能となったことにより,今年度の使用額が計画より少なくなった.また,オイラー系データの可聴化に関わる官能試験を発展させて次年度に実施することとしたこと,および歩行者実験について,今年度に実施した実験を予備実験と位置づけ,次年度に大規模な実験を行うこととしたことにより,次年度使用額が生じることとなった.
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