2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K19077
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
高原 淳一 大阪大学, 工学研究科, 教授 (90273606)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | メタマテリアル / プラズモニクス / ハイパボリックメタマテリアル / 光共振器 / 金属・絶縁体相転移 / 二酸化バナジウム |
Outline of Annual Research Achievements |
誘電体と負誘電体とのハイブリッド多層膜であるハイパボリックメタマテリアル(HMM)中では、光の等波数面は通常の球面ではなく、双曲面となる。双曲面は波数空間で開いているから、バルク伝搬波にもかかわらず波数に上限がなく、回折限界の制約を受けない特徴を持つ。HMMはこれまでに超解像レンズ(hyperlensとよばれている)や黒体輻射を超える近接場熱輸送、単一光子源などへの応用が提案されている。しかし、これらはかなり特殊な応用であり、波数空間でのユニークな特性が、光デバイスとして十分に活用されているとはいえなかった。 本年度、我々はHMM光共振器の共振モードについて電磁界シミュレーションを用いて系統的な解析を行った。その結果、通常の誘電体光共振器では共振器の大きさを変えると共振波長が変化するが、HMM光共振器では縦横の比率が一定ならば、同じ波長で共振することが分かった。詳細な理論解析の結果、この現象はHMM光共振器に特有のX字型の電磁場モード分布が関係していることが明らかになった。このユニークな特性により、HMM光共振器は波長に依存することなく、極めて小さな共振器を実現できると考えられる。シミュレーションでもこの特性は確認することができたので、今後は実験的な検証が必要である。 実験面では、金属・絶縁体相転移材料として知られる二酸化バナジウム(VO2)薄膜をレーザー蒸着法により作製した後、微細加工することにより光共振器を作製した。基板温度を変えて媒質の誘電率を正から負へと変化させることで、光共振器の共振周波数を変化させることに成功した。これはHMMの光学特性の動的な変調への道を拓くものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2年目の本年度は、HMM光共振器の理論および金属・絶縁体相変化材料を用いたHMM光共振器の光学特性の動的な制御に関する実験について大きな研究の進展があった。 理論面ではHMM光共振器の共振周波数が共振器サイズに依存しないという予期していなかった理論的な発見があった。これは応用上、従来の光共振器の概念に変革を迫る重要な成果といえる。また、昨年度までの研究でHMMに金属を用いた場合、バルク伝搬波の伝送損失が当初の予想以上に大きいことが明らかとなった。損失を低減するために波長域を中赤外に長波長化し、極性半導体において中赤外域に観測される表面フォノンポラリトンによる負誘電体を用いた低損失なHMMの可能性について研究を行った。その結果、誘電体を用いることでいわばフォノニックHMMともよぶべき超低損失HMMを実現できることがわかった。 実験面では金属・絶縁体相変化材料のVO2光共振器を用いたメタサーフェスを実際に作製し、昨年度導入した冷却加熱ステージを用いて基板温度を相転移温度(68℃)の前後で変化させることにより、媒質の誘電率を正から負へと変化させた。近赤外域における顕微分光測定の結果、反射率における共振ピークの温度によるシフトを観測した。シミュレーションとの比較から、これは金属・絶縁体相転移によるものであることが確認された。 以上より、当初計画以上に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度はHMM光共振器において共振周波数が共振器サイズに依存しないという著しい特徴が理論的に明らかになった。来年度は本成果を論文にまとめると共に、これを実験的に検証したい。また、VO2を利用することによりHMM光共振器と誘電体光共振器の間の動的な切り替えが実現できると考えられるので、シミュレーションと実験を行う予定である。 本研究はハイパボリック・フォトニクスともよぶべき新分野の確立を目指している。本年度の成果によって、通常の誘電体を用いたフォトニクスとも金属を用いたプラズモニクスとも異なる光デバイスが視野に入ってきているので、これをさらに推進することでハイパボリック・フォトニクスを確立したい。
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Causes of Carryover |
研究に使用しているシミュレーションソフトウエア(COMSOL)は平成30年4月~平成31年3月までの年度単位の1年契約となっている。平成30年3月末時点での研究費の残額が本ソフトウエアの継続使用の金額程度であったために、次年度使用額として申請した。支払いは平成31年度4月に行う予定である。
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