2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K19229
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
中道 範人 名古屋大学, 理学研究科(WPI), 特任准教授 (90513440)
|
Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2021-03-31
|
Keywords | 化合物 / 花成誘導 / 遺伝子発現 / 概日時計 / 植物 / シロイヌナズナ |
Outline of Annual Research Achievements |
活性のあるプローブを用いた、花成誘導化合物の標的探索を試みた。本研究室の別の研究プロジェクトで確立した、化合物標的探索のプロトコール(Uehara et al., PNAS 2019, Saito et al., Plant Direct 2019)、あるいはその改良した方法論でアプローチしているものの、化合物の標的とみなせるタンパク質の決定には至っていない。 化合物処理後の遺伝子発現プロファイルも化合物の作用機序の決定へ向けた重要な情報となる。実際にこのアプローチによって、我々は別の化合物の作用機序の解明を達成した(Ono et al., Plant Cell Physiol. 2019)。この方法を本研究に適用したが、本化合物の短時間の処理で変化する遺伝子は見出すことができなかった。しかし、化合物を1日処理すると花成ホルモン(FT)遺伝子の発現が上昇するため、化合物処理1日目, 2日目で遺伝子の発現を解析した。植物を短日条件あるいは長日条件で生育させ、化合物を処理し、1日目, 2日目のRNAサンプルを3時間おきに回収した。このRNAをショートリードシークエンサーによるRNAseq解析に供与した。期待通りFT遺伝子は、短日条件で化合物によって誘導された。また長日条件でも化合物はFT遺伝子の発現を上昇させた。化合物処理によって発現に影響をうける遺伝子群を抽出すると、これらの遺伝子群は日長依存的に誘導される遺伝子群であることが判明した。したがって、本化合物は花成以外の日長依存的生理反応を網羅的に明らかにする働きがあることが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
花成誘導化合物の標的タンパク質の同定へ向けたこれまでの研究は、不首尾に終わっている。これは標的タンパク質と化合物の結合係数が未知であり、我々の取り組んだ生化学実験でもちいた溶液や反応条件が適切でなかった可能性がある。あるいはこの化合物の標的はタンパク質以外の生体分子である可能性もある。 しかし化合物処理後の網羅的な遺伝子発現解析を行うことで、この化合物があらゆる日長応答性反応を撹乱する可能性が示唆された。シロイヌナズナにおいて、有名な日長応答反応は花成と胚軸・葉柄の伸長である。本化合物は、これらの生理反応以外にも日長依存的反応があることも示唆しており、植物の日長応答反応の基礎的な理解のために非常に有用な研究ツールとなるであろう。 また本化合物の生物活性の重要性から、新たな構造で同様の活性のある化合物のスクリーニングを開始した。その結果、同様の活性をもつ新規化合物の取得に成功した。これは本研究の開始時には予定していなかった成果であり、この第二の化合物も併用することで、日長応答性反応の統一的な理解が深まると期待される。
|
Strategy for Future Research Activity |
化合物の作用機序の解明にむけて、標的となる生体分子の決定は重要である。それに向けて、様々な取り組みを行っているんが、現在のところ標的の決定には至っていない。しかし化合物処理後の遺伝子発現の結果や、この化合物が時計を調節することなど、新たな知見も蓄積しており、それらは標的分子の決定へ向けた重要な情報となっている。化合物処理後に変化する遺伝子群を調節する転写因子やその因子の制御タンパク質などが化合物の標的候補となりうる。今後は、これらのタンパク質に化合物が直接作用するかを検討する。そのために機能することが担保されているタンパク質を植物体内から免疫沈降法などで精製する。 これまで扱ってきた化合物プローブは、標的をアフィニティー精製することに特化したものであった。このプローブは標的タンパク質との結合の様式や結合定数が未知の場合、成功しない可能性がある。そこで新たに、化合物と標的生体分子の物理的な相互作用を検証できる方法に取り組む。方針としては、化合物の化学的改変を極力少なくし、オリジナル化合物と生物活性が同等以上であることを担保することが重要であると考える。
|
Causes of Carryover |
これまでの本課題での取り組みにより、シロイヌナズナの花芽形成誘導化合物の作用機序の解明は当分野の理解を一変させるものと期待されたが、そのためには新たな実験材料の作成が必要であった。研究成果をより最大限に意義のある発表をするために、次年度も上記の実験をはじめとした研究に取り組む必要性があると判断し、当研究課題の事業延長を申請した。 化合物の作用機序の解明にむけて、化合物処理後の遺伝子発現の結果や、この化合物が時計を調節することなど、新たな知見も蓄積しており、それらは標的分子の決定へ向けた重要な情報となっている。今後は、これらの情報を参考にしつつ、化合物の作用機序の解明にむけた研究に取り組む。
|