2017 Fiscal Year Research-status Report
工場野菜の機能性成分や香気成分の含有量を高めるための、情報伝達気体の曝露
Project/Area Number |
17K19312
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
谷 晃 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 教授 (50240958)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | 野菜工場 / ガス濃度調整 / スイートバジル / 情報伝達物質 / 機能性成分 |
Outline of Annual Research Achievements |
植物が生産する緑の香り成分(青葉アルコールや青葉アルデヒド)や二次代謝物のテルペン類の一部は、情報伝達物質として働き、周囲の植物へ危険を知らせる役割があることが、最近の報告から明らかになってきた。野外の植物は、ある植物の葉が虫に食われると、その葉から放出される防御物質を感知し(立ち聞き)、防御物質の生産量を自ら高めるというのである。これは、生産される防御物質の同定や遺伝子発現の証拠から、実際に自然界で起こっていることが証明されてきた。本研究では、この植物の“立ち聞き”機能を積極的に利用し、防御物質として生産される香気成分や機能性成分の代謝系を活性化させることで、野菜工場で生産される野菜の機能性成分含有量を高めることを狙いとする。 研究は以下の2項目からなる。 1 ガス濃度調整装置の製作:水耕栽培した野菜に、情報伝達物質の候補となるテルペン類、青葉アルデヒド類、植物ホルモン様物質などを曝露する装置を製作する。 2 曝露実験:対象植物はハーブ植物のスイートバジル、ワサビ、赤色系リーフレタス、その他とする。これら植物は以下の機能性成分を含む。バジルはリナロール、カンファー、オイゲノールなどのテルペン類(香り成分、リラックス効果)、メチルカビコール(刺激性、発がん性が疑われている物質で低減策を検討する)を含む。ワサビは辛味と香りの主成分であるアリルイソチオシアネートなどのチオシアネート類を含む。赤色系リーフレタスはチコリ酸、クロロゲン酸、ケルセチン-3-マロニルグルコシドなどのポリフェノール類(抗酸化活性)を含む。これら植物を水耕栽培して、ある程度の大きさに達したところで曝露実験を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
水耕栽培した野菜に、情報伝達物質の候補となるテルペン類、青葉アルデヒド類、植物ホルモン様物質などを曝露する装置を製作した。 今年度はガス濃度調整装置を以下のように製作した。 定格40 L/min程度のエアーポンプを用いて、外気を取り込み除湿装置で除湿したのちに活性炭へ送る。除湿装置は、水温7℃に設置した恒温水槽内を空気を通過させることで,露点温度を下げるものである。これら空気を、低濃度ライン、中濃度ライン、高濃度ラインへ送る。これらとは別に1 L/minの空気をパーミエーターへ通気し、パーミエーター内で候補物質を気化させる。パーミエーターで製作できる候補物質の濃度はppm以上であるため、パーミエーター出口の空気を3つに分けて、それぞれ低濃度ライン、中濃度ライン、高濃度ラインの空気を混合希釈させる。これにより、ppb~ppmまでの広範囲な候補物質濃度の空気をつくる。候補物質を、内径1~6 mmのガラス管(長さ8 cm)に1 cmほどの深さで入れ、パーミエーター内に設置する。パーミエーター内部は恒温槽となっており、温度に対する蒸気圧関数に従って、候補物質が気化する。さらに希釈を要する。 暴露装置は、横60cm、高さ50cm、奥行き80cmの立方体で、アングルで骨組みを製作し、そこにポリエチレン製の透明シートを覆って、密閉度を高めた。内部に設置した塩ビ管に約30個の穴をあけて、そこから曝露空気を噴出させた。人工光源には例陰極蛍光管および発光ダイオード(青、赤、遠赤色)を用いた。CO2濃度を変えた予備栽培試験の結果、内部でスイートバジル及びリーフレタスが正常に生育することを確認した。 学生2名がこの研究に取り組んでおり、工夫をしながら実験を進められた。当初計画になかった実験装置の除湿装置を組み込むなど、継続した暴露実験を行える高性能の実験装置ができたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度および31年度は暴露実験を実施する。対象植物はハーブ植物のスイートバジル、ワサビ、赤色系リーフレタス、その他とする。これら植物は以下の機能性成分を含む。 バジル:リナロール、カンファー、オイゲノールなどのテルペン類(香り成分、リラックス効果)、メチルカビコール(刺激性、発がん性が疑われている物質で低減策を検討する) ワサビ:アリルイソチオシアネートなどのチオシアネート類(辛味と香りの成分) 赤色系リーフレタス:チコリ酸、クロロゲン酸、ケルセチン-3-マロニルグルコシドなどのポリフェノール類(抗酸化活性) これら植物を水耕栽培して、ある程度の大きさに達したところで曝露実験を行う。候補物質を1種類パーミエーターに入れて、3種の濃度空気を作り植物へ曝露する。曝露期間は3週間とする。収穫調査後に、上記の目的成分の含有量を測定する。葉に含まれる目的成分を溶媒で抽出後に、ガスクロマトグラフ質量分析計(GCMS)あるいは高速液体クロマトグラフ(LC)で測定する。1回の曝露実験とその後の成分分析に、約40日間を要すると推定される。文献調査を継続し、候補物質を絞り込み、2年間で5~10物質を用いるが、有意義な結果が出た場合、濃度やその他の実験条件を変えた詳細な実験を実施する。引き続き学生2名が代表者とともに実験に取り組み、栽培から暴露実験、成分抽出・分析までルーチン化して実験を推進する。
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