2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K19510
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
栗原 裕基 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (20221947)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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Keywords | 血管新生 / 血管内皮細胞 / 細胞遊走 / カドヘリン / 形態形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
血管新生は、血管内皮細胞の増殖と遊走によるホモフィリックな自己組織化過程であり、血管の内面を覆っている内膜を構成するのは血管内皮細胞に限られている。その形成過程は、同じ管腔構造を特徴とする気管支肺胞や分泌腺などと大きく異なり、細胞が追い越し合ったり行きつ戻りつしながら複雑で多様な集団運動によって営まれていることが、最近の我々の研究などで明らかになってきた。本研究では、こうした内皮細胞において血管新生能を担っている分子システムを内皮細胞以外の細胞において再構築し、その細胞本来の性質を維持しながら血管構造を実際に作らせることを目標に、培養血管内皮細胞を用いて血管新生能に直接関与する「内皮細胞らしさ」を明らかにしてきた。その結果、血管内皮細胞では他の非血管系細胞と異なり、細胞接触によってむしろ運動が亢進し、速度方向の持続性も高まること、2細胞の接触により特徴的な回転運動を起こすことを明らかにした。このうち方向性の持続はVE-カドヘリンに依存する一方、接触による運動亢進や回転運動はVE-カドヘリン非依存的な特性であること、VE-カドヘリン依存性の方向性持続が血管伸長に重要な役割を果たすことを明らかにした。さらに、発芽様血管新生モデルにおける遺伝子発現プロファイルを単一細胞レベルのRNA-seqにより解析し、細胞表現型の時間的推移による多様性の時間発展が血管伸長に寄与している可能性を見出すとともに、変動の著しい転写因子の1つであるKLF4に注目し、RNA-seqやChIP-seqなどの手法を用いて、その下流遺伝子の新たな候補をいくつか同定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マウス膵臓由来血管内皮細胞株MS-1によるin vitroの発芽様血管新生モデルにおいて、タイムラプス画像に基づいて細胞運動の時系列データを取得、方向統計の手法などを用いて細胞間の連携や運動特性を解析し、間葉系、上皮系の非血管系培養細胞では一般的現象として細胞接触による運動阻害を起こすのに対し、血管内皮細胞では細胞接触によってむしろ運動が亢進し、速度方向の持続性も高まることを見出した。さらに、血管形成能に直接関わる内皮細胞特有の動態として細胞分裂後2細胞による特徴的な回転運動を明らかにした。その機構を明らかにするため、CRISPR-Cas9によりVE-カドヘリン遺伝子を欠損する変異株を樹立し、直線的な方向性の持続はVE-カドヘリンに依存する一方、接触による運動亢進や回転運動はVE-カドヘリン非依存的な特性であることを明らかにした。さらに、VE-カドヘリン欠損により細胞運動が亢進するにもかかわらず発芽形態形成能が減弱することから、VE-カドヘリン依存性の方向性持続は血管伸長に重要な役割を果たすことを明らかにした。さらに、発芽様血管新生モデルにおける遺伝子発現プロファイルを単一細胞レベルのRNA-seqにより解析し、表現型の多様性とその連続性から細胞表現型の時間的推移による多様性の時間発展が血管伸長に寄与している可能性が考えられた。さらに、変動の著しい転写因子の1つであるKLF4に注目し、RNA-seqやChIP-seqなどの手法を用いて、その下流遺伝子の新たな候補をいくつか同定した。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度の研究は予定通り進捗しているが、回転運動を始めとする血管内皮細胞特有の運動特性の多くは予想に反してVE-カドヘリンの欠損によりむしろ目立つようになり、他の分子メカニズムが想定されるため、現在VE-カドヘリン遺伝子欠損変異株による検討を進めている。これと単一細胞レベルのRNA-seqを進めることにより、「内皮細胞らしさ」を賦与する遺伝子カスケードを明らかにすることを第一の目標にする。一方では、VE-カドヘリンの役割に関して、当初の予定に従って研究を推進する。即ち、マトリゲルを基質とした細胞移植などによりMS-1細胞の血管新生能を確認した後、VE-カドヘリン欠損内皮細胞と変異型を含めたVE-カドヘリン再導入細胞を用いて、培養下での細胞動態がin vivoにおける血管新生能を反映するか否かを検討する。さらに、非血管細胞(例えばNIH3T3細胞)にVE-カドヘリンとともに他の遺伝子を導入することによって血管内皮細胞と同様の細胞動態が再現されたものについて同様の移植実験を行い、新生血管に取り込まれるかどうかを検討する。同様の実験を、腫瘍血管促進能をもつ腫瘍細胞との同時移植によっても試み、腫瘍組織内における血管構造形成への関与についても併せて検討する。
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Causes of Carryover |
前年度の研究は予定通り進捗しているが、回転運動を始めとする血管内皮細胞特有の運動特性の多くは予想に反してVE-カドヘリンの欠損によりむしろ目立つようになり、他の分子メカニズムが想定されるため、現在VE-カドヘリン遺伝子欠損変異株による検討を進めている。これと単一細胞レベルのRNA-seqを進めることにより、「内皮細胞らしさ」を賦与する遺伝子カスケードを明らかにすることを第一の目標とした。このため、その解明に要する平成29年度計画の実験の発展的継続が必要であり、その遂行のため次年度使用を要することとなった。
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