2017 Fiscal Year Research-status Report
歯周病細菌プレボテラ・インターメディアのバイオフィルム形成機構の解明
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17K19769
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
内藤 真理子 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 准教授 (20244072)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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Keywords | 歯学 / 感染症 / 微生物 / プロテオーム |
Outline of Annual Research Achievements |
プレボテラ・インターメディアはグラム陰性偏性嫌気性細菌であり、慢性歯周炎の主要病原細菌の一つとしてあげられる。我々がポルフィロモナス・ジンジバリスにて発見した新規の病原タンパク質分泌機構(Ⅸ型分泌機構:T9SS)は本菌にも存在する。この分泌機構は本菌の病原性の発揮に重要であることが予測された。しかし本菌は他の歯周病原細菌と異なり遺伝子特異的変異株作成技術が確立されていないため病原性の詳細な解析が著しく遅れている。これまでに我々は本菌への遺伝子操作技術の導入に挑戦し、遺伝子の変異株の作製に世界で初めて成功した。得られた変異株からT9SSがバイオフィルム形成に必須であることを明らかにした。本研究では本菌のT9SS変異株を野生株と詳細に比較解析することにより、バイオフィルム形成機構に関与する因子の網羅的な探索を目指した。さらにバイオフィルム形成に関わる因子の同定とその機能の検討を行った。 本年度の研究ではまずT9SSにて輸送される分泌タンパク質をin silicoの手法で探索した。特に類似の菌ではバイオフィルムの形成にはタンパク質分解酵素遺伝子が関わることを明らかにしていたので、T9SS依存で分泌されるタンパク質分解酵素遺伝子を探索した。これにより、6遺伝子を抽出、うち5つについて遺伝子特異的変異株の作製に成功した。そのうち2遺伝子の変異株について野生株に比べて、顕著にバイオフィルムの形成が減弱することを見出した。またバイオフィルム形成に関与する因子を網羅的に探索する為に、バイオフィルム形成時に発現が変化しているタンパク質の検索を行った。野生株の通常の液体培養時(planktonic cell)の菌体とバイオフィルム形成時の菌体を用いてwhole cell lysateのタンパク質を比較したところ、顕著な違いは認められないことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
T9SSにて輸送される分泌タンパク質分解酵素をin silicoの手法で探索した。目的のタンパク質は特徴的に、1)N末端の分泌シグナル、2)タンパク質分解酵素ドメインモチーフ、3)C末端のT9SS輸送シグナルモチーフ(CTD)を有している。そこで本研究で用いる遺伝子操作可能株の全遺伝子、2797遺伝子の配列情報から最初に分泌タンパク質をN末端の分泌シグナルの予測プログラムで抽出した。さらにHidden Markov Modelを用いたHMMERプログラムにより、公共データーベースに登録されているすべてのタンパク分解酵素固有の保存モチーフとCTDの両方を保有する遺伝子を探索した。これにより、6遺伝子を抽出、うち5つについて遺伝子特異的変異株の作製に成功した。得られた変異株のバイオフィルム形成能を、蛍光染色による共焦点顕微鏡で観察、野生株と比較した。結果二つのタンパク質分解酵素遺伝子の変異株それぞれで、バイオフィルム形成量が野生株の20%程度に顕著に減弱していることを明らかにした。これらの遺伝子は本菌のバイオフィルム形成能に必須であると推測することができた。またこれらの遺伝子の変異株では本菌の特長である、赤血球凝集活性、集落の黒色色素産生性、ヒト血清耐性には変化は認められなかった。 またバイオフィルム形成に関与する因子を網羅的に探索する為に、バイオフィルム形成時に発現が変化しているタンパク質の検索を行った。野生株の通常の液体培養時の菌体とバイオフィルム形成時の菌体を用いて全菌体のタンパク質を比較したところ、顕著な違いは認められないことを明らかにした。また菌体表層のバイオフィルム(菌体外重合マトリックス:ECMs)を他の病原細菌、口腔内細菌での手法を参考に抽出条件の検討を行った。結果、0.5M NaCl濃度により本菌のECMsを得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究からバイオフィルムの形成に関与すると思われる2つの遺伝子を見出したことから、本年度はこれらの遺伝子についての詳細な解析を行う。まず、抗体を作製、これらの遺伝子の産物であるタンパク質分解酵素の局在を明らかにする。 また昨年に引き続き、プロテオミクスの手法によりバイオフィルム形成に関わるタンパク質の網羅的探索を行う。昨年の研究で野生株の通常の液体培養時の菌体とバイオフィルム形成時の菌体ではタンパク質の発現パターンに変化は認められなかった。そこで本年度は野生株とバイオフィルム形成が減弱もしくは欠損した変異株との網羅的なタンパク質の発現比較を行う。全菌体のタンパク質だけでなく、各菌株の外膜画分、培養上清、菌体表層のバイオフィルム画分を調整する。得られたサンプルをSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動および二次元ゲル電気泳動にて展開し、CBB染色する。分離された個々のタンパク質スポットについて画像解析により野生株と各種変異株で比較をする。変化が認められたタンパク質は質量分析(MALDI/TOF-MS解析)にて同定する。これにより本菌のバイオフィルム形成に関与するタンパク質を網羅的に同定する。 これらの研究により新たに同定した遺伝子について、遺伝子特異的変異株を作製する。作製した変異株はさらに野生株とバイオフィルム形成量の比較を行う。またこれまでの研究で本菌のバイオフィルム形成にはT9SSが必須であることから、得られた変異株における病原性とT9SS機能の変化を調べる。9SS機能はT9SS依存性にみられる、赤血球凝集活性、集落の黒色色素産生性、インターパイン産生についての変化を検討する。これにより、同定した遺伝子の機能がT9SSの分泌輸送に関与するのかを判定する。病原性はマウス接種の膿瘍形成により検討する。
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Causes of Carryover |
H29年度に実施する予定だったプロテオーム解析が、in silico解析の予定外の進展のため実施できなかったため。H30年度にはプロテオーム解析を実施するので、そのために必要な二次元電気泳動用の既成ゲル、ストリップなどの物品の購入に用いる予定である。
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Research Products
(5 results)