2018 Fiscal Year Research-status Report
合成香料を内包したマイクロカプセルが水界生態系に与える影響の検証
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17K20041
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山室 真澄 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (80344208)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鑪迫 典久 愛媛大学, 農学研究科, 教授 (40370267)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | マイクロカプセル / 柔軟剤 / 人工香料 / 生態影響 / 魚介類 |
Outline of Annual Research Achievements |
各国の水産物から揮発性が高く、かつ難水溶性である人工香料の検出報告が相次いでいる。さらには、韓国の漢川河口では奇形魚が頻繁に漁獲されるようになり、原因として人工香料が疑われている(2016年4月10日中央日報日本語版)。本研究では、水溶性ではない人工香料が魚介類に取り込まれるメカニズムとして、世界的にも使用量が増えている柔軟剤に含まれるマイクロカプセルの形で人工香料が取り込まれているとの仮説を立て、その検証を目的とした。 柔軟剤のマイクロカプセル中にどのような成分を香料として使用しているかは、ほとんど公表されていない。このため、市販されている柔軟剤10品について人工香料を網羅的に調査した研究を参照し、検出されていた成分の標準試薬を検索した。現在、GC/MSで標準試薬の分析手法の確認を行っている。 市販の柔軟剤(K社製、L社製、P社製の3種)およびフレグランススプレー(カプセルある・なし)について、カプセルの生態影響評価を試みた。カプセルの有無による毒性の違いを明らかにするため、柔軟剤を超音波洗浄機処理、超音波抽出機(ホモジナイズ)処理、風乾処理、熱風乾燥処理などを実施し、それぞれ処理前と後のサンプルで生物試験を行った。カプセルの有無は光学顕微鏡下で確認した。生態影響はメダカとミジンコを用いた曝露試験で確認した。メダカ曝露試験はOECDテストガイドライン203に準拠を改変して、より感受性の高いと思われるヒメダカの孵化稚魚を使用した。ミジンコ曝露試験はOECDテストガイドライン203に準拠してオオミジンコを使用した。先述の柔軟剤サンプルについて、様々な方法でカプセルの有無による影響の違いを調べたが、現時点では両者に明確な差は認められなかった。香料成分のメダカに対する毒性が弱いためと考えられる。ミジンコ曝露実験については再現性を得るため、現在、繰り返し試験を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度に柔軟剤のマイクロカプセルを光学顕微鏡で観察できることを確認し、今年度は主な人工香料について標準物質が存在するため定量分析が可能であることが分かった。最終年度である来年度は、実環境から生物を採取して香料濃度を分析し、濃度が高いものについて顕微鏡観察によりマイクロカプセルを取り込んでいるかどうか決定できる可能性が非常に高くなった。試験生物を使用した実験も、実験手法としては今年度で完成したので、来年度には影響評価ができる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
化学物質の環境リスクを評価する化審法の新規化学物質審査では、揮発性が高く難水溶性の物質はフガシティーモデル(大気、水、土壌、生物、懸濁質、底泥の環境の各相における化学物質の分配を表すモデル)で水相に存在しないとされるため、水生生物に対する試験の必要性が低い。このため、水溶性が低い物質の環境リスクは、マイクロカプセルを通じて環境中に拡散することを想定していないため、いわば野放しになっている。 最終年度に当たる来年度は懸濁質を濾過して取り込む二枚貝を中心に解析を行い、人工香料が水相ではなく懸濁質として生物に取り込まれている実態を解明することで、環境リスク評価の改善に資することを目指す。
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Causes of Carryover |
柔軟剤に使用されている人工香料について、当初は網羅的に分析する予定だったが、同様の分析結果を公表している既報があったため、網羅分析に使用する予定だった消耗品類などの経費が節約できた。節約分は来年度の生物分析に使用する。
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