2019 Fiscal Year Research-status Report
細胞集団における放射線誘発突然変異の頻度分布に関する研究
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17K20052
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Research Institution | National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology |
Principal Investigator |
鹿園 直哉 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子生命科学領域, 統括グループリーダー(定常) (10354961)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
酒井 真理 群馬大学, 大学院医学系研究科, 助教 (70727338)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2021-03-31
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Keywords | 突然変異 / 放射線 / ミューテーター |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、放射線誘発突然変異が集団内で不均一に起こりうる可能性に着目し、細胞一つ一つの生理状態と突然変異の関係性を明らかにすることを狙う。本研究では、まず細胞に放射線を照射した後の生理状態が細胞の生存や突然変異にどのように関わるかに迫りたいと考えている。具体的には、細胞増殖が速く解析結果が早く得られるモデル生物の大腸菌を用い、放射線照射後の生理状態の突然変異への影響や、影響がある場合どのようなメカニズムでその影響が生じるのかの解明を目指して研究を進める。 本年度は、昨年度見出した、大腸菌のX線照射後液体富栄養培地で2時間培養した場合には、照射直後や16時間培養した場合に比べlacI突然変異頻度が非常に高くなる現象、に関する知見を得るための研究を進めた。recAやlexAといったDNA損傷応答遺伝子欠損株を用いて調べたところ、これらの大腸菌では突然変異の培養時間依存性は見られないことがわかった。このことから、本現象はX線によって誘導される突然変異誘発機構(SOS応答)が関与していることが示唆される。一方で、突然変異頻度の培養時間依存性が放射線の線質に影響されるかを調べるため、電離密度が大きいヘリウムイオンにおけるlacI突然変異頻度を調べた。その結果、ヘリウムイオン照射大腸菌はX線照射大腸菌に比べ突然変異誘発頻度が低く、時間依存性も明確にはみられないことが明らかとなった。 本研究で明らかになった培養時間依存的な突然変異誘発は、高い電離密度を誘発する放射線では観察しにくい現象であるが、大腸菌のSOS応答による生理状態の変化に起因している可能性が示唆される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
SOS応答欠損の大腸菌に対するX線照射効果を明らかにするとともに、野生型のヘリウムイオンビーム生物効果はX線とは異なることを見出した。本研究から得られた結果は、照射直後の誤りがちな修復によってだけではなく、X線照射後の大腸菌のSOS応答の発現レベルという生理条件により突然変異誘発誘発が影響を受ける可能性を示唆する。研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
放射線突然変異誘発の照射後の培養時間依存性の原因を詳しく調べるために、環境ストレスに関与するrpoS遺伝子欠損株等を用いて、どのような機構により本現象が生じているかを明らかにする。また、16時間培養後の突然変異頻度が2時間培養後の突然変異頻度より低下する現象に関して、lacI遺伝子変異が生じた大腸菌の生育遅延で淘汰された結果生じているかどうかを調べる。これらにより、照射後の生理条件が突然変異に関与するかどうかの知見を得る。 一方で、青白コロニーを用いて突然変異を可視化する系を用いて、放射線照射後のmutator頻度を調べる実験を進める。X線誘発mutator頻度の線量依存性を調べるとともに、培養時間依存的な突然変異頻度上昇と誘発された変異の分布に関する基礎的知見を得る予定である。
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Causes of Carryover |
当初計画を効率的に進めた結果、物品費を節約できたため、未使用額が生じた。これにより、当初計画に追加して研究を実施し、本研究の目的をより精緻に達成することを図る。未使用額は、追加する実験に係る物品費として使用する。
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