2019 Fiscal Year Research-status Report
Genealogy of Monarchism in the Russian Churches: From ROCA to Tsarebozhiniki
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17KK0019
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
高橋 沙奈美 九州大学, 人間環境学研究院, 講師 (50724465)
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Project Period (FY) |
2018 – 2020
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Keywords | 宗教社会学 / ロシア正教 / 聖人崇敬 / ディアスポラ / ナショナリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
ロシア帝国最後の皇帝ニコライ二世とその一家は、1918年にボリシェヴィキによって殺害された後、1981年にニューヨークに本部を置く在外ロシア正教会(以下「在外教会」)によって列聖された。ドイツ・ブレーメン大学滞在期間中には、欧州における列聖支持、あるいは反対の運動がどのように展開したのかを、欧州の在外教会の資料や、欧州を基盤とするロシア語定期刊行物の記事等から明らかにすることを目標とした。 資料収集は主に、ブレーメン大学東欧研究所の図書館・アーカイヴで行った。また、東欧研究所のニコライ・ミトローヒン研究員とは、常に研究打ち合わせを行い、研究の進捗状況を確認し、今後の研究方針についての相談を重ねた。 2020年1月末までには、ロシア本国の正教徒ディシデント(異論派)たちによる、在外教会におけるツァーリ一家列聖に対する支援の動きを明らかにすることができた。この点は、従来の研究では明らかにされていなかった問題で、本研究による新しい知見である。 2020年1月31日には、東欧研究所にて“The Russian Last Emperor as a Russian New Martyr: Incentive and Impact of the canonization of the Tsar in Russian Abroad, 1981“と題する報告を行う機会を得た。 2020年2月15日には、ブレーメン市内の受難者聖ツァーリ一家教会(Церковь во имя святых Царственных страстотерпцев)にて、一般市民向けの講演を行い、帝政末期には社会的に評価されなかったツァーリ一家が、その死後、亡命ロシア人社会においてどのように聖なる受難者として表象されるに至ったのか、その過程を紹介し、列聖の謎を指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年3月中旬までは、ほぼ研究計画通りに調査を実施することができた。ブレーメン大学に所蔵されたアーカイヴ資料と、亡命者・異論派の定期刊行物を精読することができた。 アーカイヴについては、セルゲイ・ポロジェンスキー、グレブ・ラールら、亡命ロシア人のうち、聖職者やキリスト教関連の出版物に携わった人物のフォンドを中心に資料を検討した。 また、『ロシア・キリスト者運動報知(Вестник РХД)』、『復活( Возрождение)』、『播種(Посев)』、『ロシアの復活(Русское возрождение)』、『大陸(Континент)』、『新しいロシアのことば(Новое русское слово)』、『ロシア思想(Русская мысль)』 などの在外ロシア語刊行物(1970-80年代)を講読した。さらに、ドイツの在外教会のアーカイヴに対して資料を請求し、本研究課題に関連する資料を取り寄せて講読を行った。 また、在ミュンヘンの在外ロシア教会府主教マルク(俗名アーベント)にインタビューを行った。府主教マルクは、在外教会シノドのメンバーであり、列聖に関わる決定に関わった高位聖職者の中で唯一存命の人物である。 これらの調査によって、ヨーロッパにおける皇帝一家崇敬についてはこれまで知られていなかった事実を含めて、ある程度明らかにすることができたと考える。 ただし、列聖の決定に至るプロセスに関わる在外教会のプロトコルや、列聖運動を支えた信者集団である「受難者ツァーリ財団(Фонд Царь-мученик)」の資料については、ヨーロッパでの収集には限界があり、ロシアおよびアメリカでの資料収集が本研究課題にとっては極めて重要である。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年4月より聖チーホン人文大学(ロシア・モスクワ)、7月にはニューヨーク市大学(ニューヨーク・アメリカ)に滞在して、それぞれアンドレイ・コストリュコフ教授、セラフィム・ガン司祭の協力を得ながら、アーカイヴでの資料収集を行う予定であった。 コストリュコフ教授は、在外教会の歴史の第一人者と言える専門家で、彼の協力の下、ロシアが在外教会の動向をどのように把握していたかについて調査する予定であった。一方、セラフィム司祭は、ツァーリ列聖決定に深くかかわった高位聖職者である故府主教ラヴル(俗名シュクールラ)の秘書であり、ツァーリ列聖決定に関わる議事録について知る人物である。彼の協力を得て、本研究課題の調査にあたって極めて重要な資料を入手することができる予定であった。 ただし、新型コロナウィルスによる渡航制限によって、2020年度の在外調査はおそらく不可能である。そのため、北海道大学付属図書館などに所蔵されている資料(主に定期刊行物)を利用しながら調査を継続する予定である。また、国外の研究協力者の協力が得て、可能な範囲で資料を取り寄せる予定である。渡航が可能になり次第、短期であっても予定していた調査地に出かけ、短期集中型で資料収集を行うことを試みる。
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Research Products
(3 results)